大人の「現代文」15……『舞姫』いまの生徒が???となるところ
最大の疑問点
芥川から森鷗外に移ります。この両者がどういう点で繋がるのかは、いずれ触れたいと思います。
いまの生徒が、名作『舞姫』を読んで、多分一番引っかかるところは、あの場面でしょう。窮地に陥った豊太郞に天方伯の随員として訪独した親友相沢が、カイゼルホオフホテルで再会し、豊太郞に心を込めた忠告をする場面です。
相沢はこう(いう趣旨のことを)言います。「今回のこと(エリスとの一件)は君の生まれながらの弱い心から生じたもので、今更あれこれ言ってもしょうがないので言わないが、君のように学識才能ある人間が、いつまでも少女との関係にかかずらわって、無目的な生活をするべきではない。大臣は君がクビになった理由を知っているから私が君をかばえば、私を私情で君をかばっていると思うだろう。それは君にも僕にもよくないことだ。だから君のことでいま大臣に君の無理な弁護をしない。とにかく大臣は君のドイツ語能力を欲しているのだから、君はその能力を遺憾なく発揮して、大臣の信用を得よ。それがとにかく肝心なことだ。
それからそのエリスとの関係は、君らが如何に本気であっても、彼女がどれだけ君を愛しているとしても、まあ釣り合いのとれた恋ではない。それは一時的な「慣習という一種の惰性」によって生じた恋にすぎない。だから、思い切って断ち切れ。別れよ。
この相沢の忠告は、往時の時代状況や豊太郞の立場を考えれば、まあ理屈は通っています。豊太郞の気持ちもちゃんと踏まえています。生徒もそれなりにわかるでしょう。ですがこの後の豊太郞のリアクションには、多くの生徒は拍子抜けするわけです。
豊太郞は言います。貧しい中にも楽しいのは今の生活。捨てがたいのはエリスの愛。私の弱い心にははっきりと決断することはできなかったが、「しばらく友の言にしたがひて、エリスとの情炎を断たんと約しき」え???
いともあっさり「エリスとの関係は断つ!」と約束してしまうのです。しかもその後に豊太郞はこう弁明します。
「私は自分を守ろうとして、敵と思う人には抵抗する」が「友に対してはノーとは言えないんだ」(友に対して否とはえ答へぬが常なり)なんだこりゃ???
ここが最大のポイントなんです。