【#ちいハコ】Act.1 ep.1お昼休み
4月某日。入社して数週間が経ち、
仕事を覚え始め、ようやく一息つけるように
なった頃のとある1日。
今日もまた“いつものメンツ”で昼食を一緒に
取っている。彼らとは配属先は違うものの、
内定者の時から顔見知りで、なんとなく
気が合いそうだと思ってよく行動を
共にしている。
最初の1週間は研修のプログラムがどの部署も同じものを受けるため、その話をしたり、
学生ノリがまだ残っているから学生のころの
話をしたりしている。
みんな違う学部出身だから僕としては興味を
引く話が多い。
特に西芝くんの話は興味深いと感じている。
今日もいつも通り彼がよく喋っている。
相変わらず面白いなこの人。
なんで話題が尽きないんだろう。
「それでさ、バッタリ会っちゃったわけよ、
幼馴染に。こんな偶然ある?」
「そういう偶然なら俺にもあるよ。
あれはたしか、2年前かなぁ。
大学3年の時だっけ...。たまたまライブを見に地方に行ったんだけどさ、そこで
中学の時同級生だった女性と再会してさ。」
「お、いいねいいね。感動の再会ってやつ。
それで?」
2年前のことをそんな高いテンションで話せるものかなぁ。
まるでその瞬間を今味わっているみたいだ。
...僕にはできないな。忘れっぽいし。
「それで、飯行こうって話になって、
なんだかんだあって、
今、その女性と3年目です...はい。」
惚気て頬が緩んでいる。初々しいな。
なんか、尊いな。
「いいねぇ。
奇跡の再会からのゴールインかぁ...」
「...まだゴールインしてないよ。」
今日も仲良いなこの2人。
微笑ましいやりとりだ。
「あ、むーくんやっと笑ったな。
こういう話題好きだろ?」
言われて気づいた。どうやら知らず知らずのうちに、僕も頬が緩んでいたようだ。
「まぁね。ほんと縁というか何というか、
運命の出会いってやつかもね。」
「ムツキくんまで...。
なんだよ、キミたちにはそういう話、
ないのか?」
僕も聞いてばっかりじゃなくて、
たまには自分の話をしてみようかな。
「僕もあるよ、そういう再会なら。」
「お、やっとむーくんからそういう話聞ける。 ナイスパスだ、まさっきー。」
今気づいたが、西芝くんの後方から
彼の上司らしき方がいらしてた。
その人は西芝くんに耳打ちした。
彼はどうやらこれから部署に戻らないと
いけないようだ。
「これからが良いところなのに...。
あ、いえ。はい、すぐそちらに向かいます。
悪いなむーくん。
また今度ゆっくり聞かせてくれ。じゃあな。」
言い終わらないうちに彼は走り去って
しまった。最後まで爽やかだった。
さてと、残された僕と真崎くんだけど。
せっかくの機会だしサシで話してみるか。
「良いヤツだね、西芝くんって。」
不意をつかれたように真崎くんが答える。
「えっ。あ、そうですね。」
「なんでいきなり敬語?」
「いやーだって。
一応ムツキくん、さんは俺と西芝より1つ
歳上なわけだし...」
「そんなの気にしなくて良いって。
前にも言ったでしょ。そんな気を遣わなくて
いいって。タメ口でいいよ、休憩時間ぐらい。
ていうか、同期なんだし。」
「そうで、だね。」
「そうです、って言いかけたな?」
「...うん。」
少し沈黙があって、
それから、
お互い吹き出した。
なんか久しぶりに笑った気がする。
「悪かったね」
「ん?何が??真崎くんが僕に気を
遣ったこと?」
「いや、なんか、俺ばっかり話しちゃってたなって、さっき。」
「良いよ良いよ、別に。僕はキミたちの話を
たくさん聞かせてもらえて、いつも楽しませてもらってるし。逆に、僕のほうこそ全然話せてなくて悪いなーとはちょっと思ってる。
実は。」
「そう、なんだね。...ありがとう。」
「?」
「...そういえばさ、 前にムツキくん
が言ってたアレ、なんとか仮説ってヤツ
だけど...」
急に話変わったな。ま、いつものことか。
仮説?...ひょっとしてアレのことかな。
「あぁ、シミュレーション仮説のこと?」
「そうそう。それ。最近さ、アレほんとっぽいなーっていうか、ありそうって思ったんだよ。」
「あーね。
そんな感じで僕の大学の友達、みんなそれに
ハマっていったよ。ハマりすぎて陰謀論に走らないようにするのが大変だったな...。」
たしか、そういう思い出がある。
おそらくは。あった気がする。
「へぇ...。なんかもっとムツキくんと
話してみたいな。今度ご飯でも行こ」
「嬉しいな、誘ってもらえるなんて。
もちろん。ご飯、行こうな。」
真崎くんはその返事に小さく頷いた。
少し緊張がほぐれたみたいだ。
彼はその後、時計を見るなりこう言った
「...じゃ、俺戻るわ。
お疲れっす。」
「おう。お疲れ。またな。」
(なんか同期っぽいな、こういうの)
かくして同期組は解散した。
部署は違うけど、良い仲間と働けてるなって
もう思ってる。
やっと、自分の人生に...
あ、またこの話。
すぐ回想に入っちゃうのは、
僕の悪い癖だな。
西芝広光と真崎伶。
2人とも、僕の大切な仲間だ。2人との間に
感じてた壁がなくなってきた。
そんな気がした、お昼休みだった。
to be continued…
*このシナリオはフィクションです。
実在の人物や団体・事件などとは
一切関係ありません。
投稿日:2024年6月13日(木)
☕️
Act.1
episode 2
6.?.2024