俳優・荒木一郎の魅力
荒木一郎が演じる役は大別すると二つのタイプに分けられる。
一つは「スマートな不良」。このタイプの役では荒木一郎本人のイメージにピッタリすぎるゆえ、「演技しているように見えない演技」という素晴らしい技が発揮されることとなる。とはいえ、実はかなり計算された上で演じられていることが、『まわり舞台の上で』や『空に星があるように』で記されている。持ち前のセンスの良さ、手先の器用さ、洗練された身のこなしに加えて、努力しているようには見せない自然体の演技。森茉莉が絶賛した「一流の不良」のカッコよさにあふれているのだ。
代表作としては『893愚連隊』『日本春歌考』『白い指の戯れ』があげられる。どれも荒木一郎のスマートさが際立っていて大変カッコいいので、ぜひとも観ていただきたい。
もう一つのタイプの役は「モテないダメ男」。実はこちらが俳優・荒木一郎を楽しむ醍醐味だと私は思う。希代のモテ男・荒木一郎がなんと、全くモテないヤサ男を見事に演じ切ってしまうのだから驚きだ。このタイプの役の荒木一郎しか知らない人は、彼を本当のダメ男だと認識してしまうだろう、というくらいホンモノのダメ男になってしまう。
こちらの代表作は何といっても『現代やくざ 血桜三兄弟』と『ポルノの女王 にっぽんSEX旅行』だろう。どちらも中島貞夫監督で、同一人物と思しき「もぐら」という通称の男を演じている。
荒木一郎が演じた「モテないダメ男・もぐら」は、長すぎる前髪を顔の前に垂らした、黒縁メガネの痩せた男。いつもオドオドしていて挙動不審。モテないくせに女が好きで、性犯罪にまで手を出すようなダメ男。当時、あるスキャンダルによって芸能界からシャットアウトを受けていた荒木一郎は、この状況を逆手に取ったような役柄である「モテないダメ男」を演じることで、東映のB級映画に重用されて行ったのだ。
さらに当時の荒木一郎は芸能事務所・現代企画の社長もやっており、東映の幹部から東映ポルノの女優のマネージメントを任されてもいた。池玲子や杉本美樹は、最初は別の事務所に所属していたが、東映が引き抜き、現代企画に預けたのだ。そのうえ彼は、映画音楽においても数多くの仕事を残している。このようにして荒木一郎は、俳優・芸能事務所社長、音楽プロデューサーとして、天尾完次、中島貞夫、鈴木則文らと1970年代の東映ポルノの中核を担うこととなって行った。
しかしこのことは、監督や主演女優などの影に隠れた裏方的な関わりであったため、世間にはあまり知られていないのが残念である。
スキャンダルをものともしない、というより逆に生かしちゃうような荒木一郎の生きざまは本当にカッコいい。あたかもゲームを楽しむかのように世間をわたるこの余裕、なんてカッコいいのだろう。実生活ではとびきりスマートでカッコいいモテ男なのに、わざとダメな男を演じ、たとえ役そのもののダメな男であるかのように世間に思われたとしても、まるで気にしない。「わかるヤツだけわかっていればいいのサ」とでも言っているかのようだ。彼の魅力が唯一無二なのはこういうところにもあると私は思う。
しかしそれゆえ、彼の本当のカッコよさが世間に知られにくくなるので、ファンとしてはもどかしい気持ちにもなってしまう。
◇この項で紹介した映画
『893愚連隊 (東映1966)』
監督:中島貞夫
原案:菅沼照夫
脚本:中島貞夫
共演:松方弘樹/広瀬義宣/近藤正臣/ケン・サンダース/天知茂/高松英郎
『日本春歌考 (創造社・松竹1967)』
監督:大島 渚
脚本:田村孟・佐々木守・田島敏男・大島渚
共演:小山明子/田島和子/伊丹一三(十三)/串田和美/佐藤博/宮本信子/吉田日出子/佐藤慶/福田善之/観世栄夫/小松方正/渡辺文雄
『現代やくざ/血桜三兄弟(東映1971)』
監督:中島貞夫
脚本:野上龍雄
共演:菅原文太/渡瀬恒彦/伊吹吾郎/松尾和子/川谷拓三/杉本美樹/小池朝雄
『白い指の戯れ(日活1972)』
監督:村川透
脚本 神代辰巳・村川透
共演 伊佐山ひろ子/谷本一/石堂洋子/五條博/足立義夫/木島一郎/粟津號
『ポルノの女王/にっぽんSEX旅行 (東映1973) 』
監督 中島貞夫
脚本 金子武郎・中島信昭
音楽 荒木一郎
主題歌『りんどばーぐスペシャル』
歌/ピート・マックJr(作詞・作曲/荒木一郎)
共演 クリスチナ・リンドバーグ/川谷拓三