劇団どくんご 「夏型天使を信じるな」観劇
劇団どくんご「夏型天使を信じるな」の札幌公演初日を観劇。長年観て来たどくんごの、5年ぶりの公演であり、ラストツアーでもある。
会社から帰って夕飯を食べてから急いで自転車で円山公園へ。いつもの公園の広場に大きなテントが建ち、そこにたくさんの人が行列していて、怪しい衣装の演者たちがその周りをウロウロ。5年前まで毎年のように見てきた夏の光景だ。これが最後になるのか、と感慨深い。
テントの規模が小さくなったことが心配だったが、入ってみると外から見るよりは小ささ感じず。座った場所が前から二列目だったからかもしれないが。
客入れの時点で既に丹生みほしの姿と声に魅了された。髭を描いた化粧に男装、低い渋い声。
冒頭の音楽、パワーアップしていた気がした。曲もエキゾチックで素敵だったし、何よりツイントランペットがとてもカッコよかった。
それにしても丹生みほしのソロがすばらしかった。最初のソロ、大きな風が吹いて一枚の絵がただの紙切れとなる、という一つの場面が、繰り返し語られるたびに肉付けを増していくその幻想性。
後半のソロはもっとすばらしく、まず走るフォームの美しさに目を見張る。『走れメロス』を題材にするというわかりやすさもいい。
そしてメロスが行く手を阻まれる川を「物語の流れ」とたとえて、意味の無い言葉で対抗して渡りきるというくだりが奥深い。
さらに四人の暴漢たちに襲われた際、たとえば「正義」という言葉の刃をそのうちの一人に向けると、四人の刃で「正義」と叩き返されるという構造。これがまた奥深い。
私はどこで間違ったのだろう、妹の結婚式に出席すればよかったのか、と最後には物語に負けてしまうという構造も面白い。
石田みやの身体を張った最初のパフォーマンスは、劇の序盤から観客の緊張を解いてくれるハイテンションな内容だった。波を生き物にたとえるという斬新さ!波のおじいさんの表現なんて考えつかない!すごく笑った。
しかし石田みやはやはり後半の、貫禄のソロがさらに素晴らしかったと思う。「あなたが〜しているあいだ、私は〜をしている」という、この「私」がどんどん尊大になっていくという内容のふてぶてしさと、それをささえる彼女自身の存在感の大きさ。すごい女優さんになった、圧巻。
石田みやの最初のパフォーマンスのテンションの高さから続いたので、きくぞうの最初のソロは地味な印象になってしまったのが残念だった。内容は文学的でよかったのだが。
しかしその後の五月うかとの二人パートでの、柔らかな身体をのびのびと使ったパフォーマンスがよかった。きくぞうから作りだされる言葉から感じられるある種の幼稚さと、五月うかの言葉の持つ余裕、包容力といったイメージとのバランスがとてもよく、幸せな家庭を描いているのに全体としてどこか哀しみがにじむような不思議な世界が出来上がっていた。
きくぞうは札幌の出身で、子供のころから何度もこの円山公園にどくんごを観に来ていたのを知っている。後半一人舞台でラップっぽく節をつけて語り踊るシーンを観ているとき、「憧れの舞台に立っている少年だ!」という気持ちがこみあげてしまい、観ていて目頭が熱くなってしまった。
Leeはまず衣装とキャラ作りで成功していたと思う。その可愛いキャラクターでみせたソロが、意外なことに女の情念のようなものを描けていたのも、怖くて面白かった。
なにもかもうまくいかず自分が情けないと嘆くうち、どんどんネジがはずれていくような演出が良かった。特にアリを虫眼鏡で燻る時の表情の細かさが秀逸。せまいテントだからこその演出かもしれない。「幸せになりたい」といいながら四つ葉を探す必死さ、チョウチョの羽のカサカサカサ…という音の重なりとともにどんどん狂っていく。とても映像的で良い場面だった。
さらには札幌にだけ特別出演してくれた時折旬のパフォーマンス!
七年前に披露した時と同じ惑星もののシナリオだったが、年齢を重ねて貫禄が異常に増した姿をうまく利用した形で、年老いた教授風に始まるニクい演出。そのまま前回のパフォーマンス同様、狂った惑星愛を展開していくのだが、この狂い方がその風貌のせいか以前にも増していて鬼気迫っていた。最後にまた老教授に戻る終わりかたも素晴らしく、大拍手!
そして、五月うか。最初のソロパートは口琴をうまくつかった影絵のパフォーマンス。記憶をなくしてしまった男の物語をやさしい声で語る。五月うかの語りはあたたかくて、残酷なものも包みこんでしまう包容力を感じる。この場面はとても美しくユニークで、音の入れ方もとても良く、ずっと観ていたくなった。
二つ目のソロパートではシリアスな雰囲気。ゆらゆら揺れる動きと青い照明の中でメランコリックに展開。独特のやさしいかんじ、大きくつつみこむ感じがさらに増していた。彼女自身が何かとても大きなものに変化したような印象があった。
どくんごが今回でラストツアーとなったのは、演出家のどいのが一昨年亡くなってしまったからだ。今回の公演、演出はどいのによって完成していたということで、全体的にはいつものどくんごとして成立していた。
しかし彼の不在を感じる場面もやはりあった。即興パートだ。今回の即興パートはどれも少し長く感じられた。こんなとき、どいのさんが脇で頭を抱えたり苦笑いしたりするだけで、場が全く変わったものだったなあ、と再認識させられた。
また今回の即興パートがどうしても間延びした印象になってしまったのには、もう一つ理由があったと思う。
これまで何年も出演してきた2Bの不在だ。
即興パートで最も重要な、混乱を招く展開を作るのも、混乱しているという状態をうまく観客に伝えるのも、2Bは長けていたのだと痛感した。
しかし今回の即興では丹生みほしによる「前の人の使った言葉を疑う」という新たなツッコミの形が誕生していて、これはこれで面白いと思った。その言葉を選んで正解なのか、その展開は正解なのか、いちいち確かめてくるかんじ、紳士のようなキャラクターと相まって、いい感じにシニカルで面白いのだ。
何にせよ最後の音楽になるとやはりどくんごはどくんごで、とても良いものを観たと胸がいっぱいになった。
そして、毎回出ている終演後の打ち上げ、今回は病気の猫が心配なので出席せず。観劇後はすぐに自転車で帰宅してこれを書いている。たくさんの人と感想を分かちあうのも楽しい時間だが、こうして一人で振り返るのもまた楽しい。