#2 雨の日の話

雨の日が好きだ、と今日だけ思うことにした。灯火を消してくれるから。指先に挟んだ煙草からたなびく煙を眺める。アスファルトの香、土煙のようなざらっとした苦い香りの奥にほのかな焦げたバニラを感じ、ビニール傘の裏から街灯に照らされぼんやりと艶めく雫の音に耳を澄ませる。恋の終わりの音、重い匂いだ。

良い思い出で終わらせたいから、いつもは嫌な雨の日も気に入ってるように振る舞った。こんな日もたまには悪くないねって笑おうとした頬は重力に逆らえないまま、ただきゅっと口を結んでいる。ストレートアイロンをかけた髪は先からうねりを帯び始めていて、軽い香水の残り香は僅か、今にも雨の匂いにかき消されてしまいそうだ。

水たまりで煙草の火を消す。ジュッと音がして、橙の光はついえた。

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