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電車に揺られている。
鉄道橋を渡る振動の中、窓の外に広がる川面は午後の日差しにきらめいていた。
あのきらめきを表す言葉は、日本語にはないのだろうか。
韓国語には윤슬(ユンスル)という単語があるらしい。


刹那を永遠に手元に置くために言葉をつけたい。

かつて愛した、いまはもう愛してはいない人を想う感情や、もう帰れない場所に帰りたいと思う気持ち、失った場所や、永遠に存在しない場所への郷愁と哀切の気持ちのことを、ウェールズ語でhiraeth(ヒライス)と言うらしいことは数年前に知った。

人は、視線が遠くへ行くような、心に張った膜を静かに丸めて飲み込むような、触れればたちまち何者かに深く引き摺り込まてしまうと知りながらその静かな湖面を眺めるだけのような、なんとも言い表し難いノスタルジックを好むのだろうか。

きっと二度と観ることのないであろう景色や、胸を打つ作品や、覚えておきたい瞬間や、あの人の言葉が、あまりに早く過ぎ去っていく。
美しかった空の青も海の青も、この手につかめない。


私は今この瞬間も、通り過ぎる景色の中にただ揺られ、手のひらで掴めない青色をほしがっている。

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