ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集:著者:石角完爾さん
紹介されて面白そうだったので,読んでみました。
タルムードとは古代ヘブライ語で「研究」「学習」を意味する言葉だそうで,ユダヤ人の「安全律」として多くの人の行動指針となる口伝律法であり,議論集なんだそうです。仕事にも通じるものが多かったので,紹介します。
ユダヤ人は強欲イメージがある?
ゴールドマン・サックスはユダヤ系の投資銀行,meta(旧facebook)の創業者:マーク・ザッカーバーグもユダヤ系。成功者が多いというイメージと同時に「お金に汚い」「金の亡者」という差別があるようです。背景には,文豪と知られるシェイクスピアが「ヴェニスの商人」で登場する金貸しの姿を"悪辣非道"に描いたことも影響していると表現しています。
ただ,重要なのはこういったイメージで語られてしまうユダヤ人の口伝律法「タルムード」の教えにある「リスク予見」「リスク分散」が,想定外を想定外にしない・物事の予見に秀でていることが関係しているように思います。
ノーペイン・ノーゲイン - 犠牲無くして成功なし
全体に渡って「ノーペイン・ノーゲイン(犠牲無くして成功なし)」という考え方がある内容ですが,これを表すエピソードで「魔法のザクロ」
というタルムードの説話がありました。
3人の兄弟がそれぞれ不思議なものを探しに行き,長男は何でも見通せるガラスのコップ,次男は空を飛ぶことのできる絨毯,三男は不思議な木からもぎ取ったザクロの実を探し当てる。長男がガラスの底を覗いてみるとそこには病に伏せるとある国のお姫様の姿が。3人は絨毯に乗ってすぐにお姫様のもとに赴き,困り果てている国王に面会し,不思議なザクロの実を半分お姫様に与えます。
お姫様はみるみる回復して,やがて歩けるようになりました。国王は大変喜んで「三人のうち,だれでも良いので姫と結婚してほしい。三人と姫でよく話し合って決めてほしい。」と告げます。
お姫様はそれぞれに質問します。
姫「長男さん,ガラスのコップは見つけたときと同じですか?」
長男「はい,そのままです。今でも使えます。」
姫「次男さん,絨毯は今も使えますか?」
次男「はい,傷一つついておらず,今でも使えます。」
姫「三男さん,ザクロは見つけたときと変化がありましたか?」
三男「はい,姫に半分差し上げたので,残り半分になっています。」
姫「三男と結婚します。彼は大切なものを私のために半分失ったのですから」
この考えは金銭哲学だけに収まらず「人生哲学」でもあると石角さんは仰っています。
「自己犠牲」ってやつですね。
ウィズダム - wisdom - 「賢明」で「懸命」な生き方こそお金を引き寄せる
ウィズダムって初めて聞く言葉でしたが,英和辞典では「知識」や「博識」「知恵」などと訳されます。
ただ,ユダヤ人にとってのウィズダムとは「インターネットで調べれば得られる知識」という意味ではなく,生活の中での判断,決定,行動指針という意味合いが強いということです。
このウィズダムも「ノーペイン・ノーゲイン」の考えて,「犠牲を払ってでも得るべき」ものなんだそうです。
そのような考えのもととなっているのが次のようなタルムードに出てくる説話です。
貧しい夫婦がいて,夫が出稼ぎに出た。8年の苦労と節約の末,袋いっぱいの金貨を得ることができた。自分の家までは20日間の道のりだが,夫は待ちわびているであろう妻に一刻もはやく会いたくて家路を急いだ。
道中,一人の老婆に出会う。老婆は「ウィズダム」を売っているという。夫はウィズダムは何よりも価値があるという教えのもと,売ってくれるように頼んだ。老婆は「その袋いっぱいの金貨が必要」だと言った。夫はそれに従い,ウィズダムを教えてもらった。
老婆「一つ,近道をしないことが成功の道,二つ,怒りがこみ上げてきても一旦堪えること。翌日には正しい道ができてるはずだ。」
その後,男は家路の途中近道と遠回りの二つの道の選択を迫られ,遠くても安全な道を選んだ。近道を選んだ馬車隊は谷底に落ちていった。
家のある街まで戻ってきたが深夜になっていた。夫は妻が寝ている時間に戻るのは良くないと思い,近くの宿で一泊泊まることにした。そこには妻が働いていた。しかし,妻は夫の姿を見ても何も反応しなかった。夫は怒りがこみ上げてきたが,堪えて夜を明かした。
早朝,妻は夫に駆け寄り「あまりに立派な服を着ていたので,本当にあなただと確信が持てなかった。帰ってきてくれたのですね。ありがとう。」と言った。二人はそれからもお互いを支え合い,力強く生きた。
タルムードが教えるリスク分散
ユダヤ人の母親はこういったWhyを子どもによく投げかけるそうです。「だめ」と言われても何故だめなのか,そこには子ども自身が気づかないとほんとうの意味で身にならないという考えがあるようですね。
とても共感できました。
「三本の矢は束ねれば折れない」(毛利元就)
「五本の矢は一本一本バラバラにせよ」(ロスチャイルド家家訓)
5人の兄弟がいたとして,一点に集中してしまうとリスクがありすぎると判断して,別々の場所に住まわせる。これがユダヤリスク分散の考え方です。
ロスチャイルド家とは欧州のユダヤ系財閥だそうで,日本でよく知られる教えを表した毛利元就の「3本の矢」とは異なる発想ですね。
まさに"金言"でした。
他にも紹介したい説話がたくさんありますが,紹介はこのくらいにします。
他者貢献や自己犠牲,すこし前に話題になった「嫌われる勇気」でも語られていた「人は一人では生きられない」からこそリスクを負ってでも他者を助け,ただそのリスクを分散することで共に生きる道を作っていく。うーん,素晴らしい。自分が荒んできたと感じたときに読み返したい本でした。
興味のある方はぜひ読んでみてください。