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The Lemon Twigs - A Dream Is All We Know (2024)


農夫に休日というものはない。作業のない日が休みというだけのこと。今は正午過ぎ。いただきもののワインを飲みながら、こんな駄文を書いている農夫は今日も休むつもりなのだろう。

BGMは、The Lemon Twigsの新譜『A Dream Is All We Know』。「複雑なものをシンプルに」というクリエイティブなデザインのお手本のような作品だ。

国内外の関連記事を漁っていたところ、本作のコンセプトが「マージー・ビーチ」というものであることを知る。なるほど言い得て妙だ。そのサウンドの肌触りは、前作よりもノスタルジックだが、そこから立ち上がるのは見たこともない懐かしい風景--リヴァプールの悪ガキたちがもしカリフォルニアに生まれていたら……といったレトロフューチャリスティック的な音像--である。

エレクトリック・フォークなアルペジオや、ハードエッジなギターのカッティング、主旋律に寄り添う(ときにあるまじき旋律を奏でる)クリエイティブなベースライン、バーバンク的なオーケストレーション、ブライン・ウィルソン的なコーラスワークなど、彼らが敬愛する先人たちのシグネチャー的手法が実に丁寧に織り込まれたサウンドは実に爽快。そこに分不相応な華美な装飾に挑んだ若い仏師のような気負いはない。また、作り込みの細やかさに反比例するかのような力の抜け(ているかのように見える)具合はもはや国宝級だ。

しかも、彼らが紡ぐメロディは実にオーセンティック。ロック業界においては、1980年代以降のオルト・ロックの時代に一度は途絶えてしまったものでもある。ジェフ・リンやポール・マッカートニーなどにも共通する20世紀初頭の香りすらする。そんなサウンドを若者はどのように受容しているのか、あるいはしていないのか--について、とても興味があるのだが、日本のディープサウスにはそもそも若者がいない。

限界集落の高い空には、とてもゴージャスで美しいタイトル曲「A Dream Is All We Know」が鳴り響いている。


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