Norah Jones - Come Away with Me 20th anniversary edition
いつの間にか新作をフォローしなくなってしまったけど、そういやなんでだったかな……。などと、ひとりごちる初老の音楽聴きに対して、音楽家はどんな感情を抱くのだろう。Norah Jonesも、理由くらい思い出してよ、くらいは考えたりするのだろうか。
大ヒット作『Come Away With Me』と、2ndアルバム『Feels Like Home』は、大好きな彼女の声が聴きたくなったときにターンテーブルにのせる愛聴盤だ。日常的にスピンしているから、あれから20年と言われても、懐かしいとかいう感慨などない。むしろこの2枚しか聞いてこなかったことについての申し訳なさみたいな感情を抱いてしまった。3rdアルバム以降、彼女のフォローをやめたのは、僕の音楽的未熟さのせいだったから。
彼女の変遷を振り返ってみて改めて、ああ、そういうことだったのかと今更ながらにわかったことがある。
デビュー作における主要曲の作者はJesse Harrisらだったものの、すでに自作の優れた楽曲も披露していた彼女は、ジャズマンではなく、そもそもシンガーソングライター気質の音楽家だったのだ。僕は彼女のそんな態度を理解できずに、ただ、素晴らしい声という唯一無二の武器を封印するかのような表現方法に納得がいかなかったのかもしれない。
スモーキーかつ繊細で、バランスがいいとは言えないものの、ほのかに甘くて、奥行きがあり、それでいて親しみやすさもある。バーボン、というよりも、安いのに美味しいスコッチか……。ジョニ黒みたいなものか。などと言ったらファンには怒られてしまうかもしれないけど。
"Don't Know Why"の第一声は、今聴いても実にフレッシュだ。ビリー・ホリデーなどのジャズを聴いて育ったそうだが、それだけでは説明のつかない多様性が、彼女のヴォイスには秘められている。
反省ついでに、リマスターされた『Come Away With Me』をポチりとしてしまった。もともといい音のレコードだけど、さらに良くなっていたらどうしようかと眠れぬ夜を過ごすくらいなら、と。だから、貧乏のままなのだ。20周年記念盤はより立体的に、間近に迫ってくるようで、とても感動的。ウイスキーボトル1本分くらいの価値は十二分にある。