Andrew Gabbard - Ramble & Rave On! (2024)
かつてロックは、反権威、反権力の象徴であり、そうした傾向をもつ若者に愛された音楽だったものの、あらゆる文化がそうであるように、このジャンルもまた時間の経過とともに教条主義的な性格が顕になっていった。それは「反権力という権威主義」に陥り、我々のような底辺市民にそっぽをむかれてしまった昨今のいわゆる”リベラル”の姿にも重なって見える。米国大統領選を眺めながらそんなことを考えていた。
Andrew Gabbardが新作『Ramble & Rave On!』で表現したのは、ロックがまだぎりぎり反権力としての体裁を保ち、なおかつクリエイティブな音楽だった時代に共有されていたはずのスピリットである。冒頭の”Just Like Magic”なんて、シンプルで骨太なサウンドで繊細な世界を描いた1970年代初頭のNeil Youngとか、Buffalo Springfieldみたいだ。
ほぼ全ての楽器を作者自身が演奏したという本作を、「ワンマン・ニール・ヤング」のようなフレーズで語りたくなる人もいるだろう。もちろん、それは間違いではないのだが、作品の本質を示すものではない。そもそもこの、Emitt RhodesやTodd Rundgrenのような自作自演スタイル(本当の意味で自作自演だ)は、1st ソロ『Fluff』(2015)からほぼ変わっていない。
脳内のアレンジに従い、ああでもない、こうでもないと一人淡々と楽器を重ねていく様は、ソングライターのデモ制作のようでもある。現に、『Strawberry Tapes Vol.1』(2018)というカセットテープ作品(デモ?)のほか、ストリーミングのみの作品などもいくつかあって、フィジカルリリースのないそれらは、もしかすると本人的にはデモのつもりなのかも。ちなみに、レーベルインフォによると、『Ramble & Rave On!』は彼の3rdソロアルバムらしいから、Andy Gabbard名義の『Fluff』はやはりデモだったのかもしれない。
おそらくは作者自身が多感な時期を過ごしたであろう1990年代のオルトロックを総括したかのような勢いのある前述の『Fluff』(2015)を皮切りに、Andrew Gabbardは続く『Plenum Castle』(ストリーミングのみ)でそのサウンドをさらに深化、レイドバックさせ、1960〜1970年代のオルトポップへのオマージュであるかのような1st ソロ(?)『Homemade』(2021)や、カントリーロックに想を得た2nd『Cedar City Sweetheart』など、コンセプチュアルな作品をリリースしてきた。
創作の原動力となったテーマは異なれど、とにかく不必要な脂部分を削ぎ落とした肩ロースのような、噛むほどに味わいの増すシンプルでとても滋味深いオーガニックなサウンドはそれら全てに共通している。余計な装飾のないそっけないくらいのシンプルネスは、高強度の楽曲に対する作者の自信を体現するものなのかもしれない。
そんな彼が最新作『Ramble & Rave On!』において追い求めたのは、ロックという音楽に宿る”マジック”ではなかったか。
ロックとは、冒頭で述べたように旧来の音楽への抵抗、あるいはそこからの逸脱が運命付けられた音楽である。ハーモニーの簡素化とか、リズムの平坦化を進めたその歴史は一見、音楽的な退化の一途を辿っているかのようだが、Fats Domino〜BeatlesやRolling Stones〜Sex Pistols、Ramones〜Nirvanaが顕著であるように、彼らが残した作品はアホみたいな3コードをただ掻き鳴らし、挑戦的な言葉をがなり立てていただけのアンチアートな代物などではなく、それ以前の音楽への深い理解とリスペクトに基づいた独創的でウェルメイドなものも多く存在していたのであり、それらの優れた作品には正規の音楽教育を受けた者であっても、おいそれとは獲得できないであろう輝きがあった。
それら素晴らしい遺産へのオマージュを捧げるAndrew Gabbardは、安易にノスタルジックに浸るのでも、安直に過去を否定するわけでもなく、持てる創造力を駆使して丹念にメロディを、そして言葉を紡ぎながら、ロックという音楽の可能性を、本質を抉り出そうとしただけなのだろう。その先にあるはずのマジックを手にすることを信じて。
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