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Thelonious Monk - Solo Monk

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日本のディープサウスは朝から雨。やることもないので、セロニアス・モンクが弾く“Everything Happens To Me”を何度も何度も繰り返し聴いていた。理由は単純。前日にウディ・アレンの『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』を観たせいだ。

主人公は純真無垢な女の子と、自分が何者であるかもわからず苦悩するロマンティックな青年--週末をニューヨークで過ごすつもりが、思いがけない事態が続き、2人はななかなか出会えずに……、という実にウディ・アレンらしい作品だった。

なかでもグッときたのが、何事もうまくいかない主人公の青年が、元カノの妹が暮らす家のピアノの前に座り、自らの心情を吐露するかのように“Everything Happens To Me”を、チェット・ベイカーみたいに繊細なタッチで歌うシーン。窓の外は雨。新たな恋の予感を感じさせる、あまりに映画的なシーンを、さりげなく粋に演出してしまうところも名人芸である。

というわけで、そんな感動の余韻に浸りながら聴く、セロニアス・モンクのピアノソロアルバム『Solo Monk』には格別の味わいがある。在りし日のニューヨークの香りを漂わせる“Everything Happens To Me”は、モンクの『Solo Monk』バージョンが一番好きかもしれない。

ためらいがちなタッチから、絶妙にスイングしはじめるモンクの演奏は、身に降りかかる小さな不運に最初は戸惑いながらも、いつしかそんな運命の悪戯を愛し始めてしまう映画の主人公を描くかのように実にドラマチックでエレガント。そういや、ジャズ好きでも知られる古今亭志ん朝さんはかつて、セロニアス・モンクを志ん生だと評していたが、これもまた名人芸だ。


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