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Van Duren - Are You Serious?

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現代においても、まだこんなに素晴らしい音楽家がいるなんて! それならば、他にもまだまだ世界に希望をもたらす天才がいるんじゃないか……。足ることを知らない愚民は、そんな素晴らしい出会いを求め、次々にレコードを買い集めはじめたという。その数はみるみる膨れ上がり、来る日も来る日も仕事もせずスピーカーに耳を傾け続ける夫に愛想を尽かした妻は家を出て、やがて黒い円盤の重みで床が抜け、家は傾き……。悲しきレコードジャンキーは、ついに崩れ落ちた塩化ビニールの山に埋もれ死んでしまいました、とさ。

自分で書いておきながらなんだが、まるで現代の寓話である。

僕はマトリクスにこだわるようなガチのコレクターではないものの、アドレナリンが放出される恍惚とした瞬間が忘れられず、新たな興奮を求めて新たなブツに手を出し続けるタイプの音楽好きではあるから、上記のような寓話を他人事として笑い飛ばすことができないのだ。薬の類で1度も法を犯したことがないのでわからないが、覚せい剤の深みにハマるのも、こんな感じなのだろうか。

そんな深みにはまった1枚が、Van Durenの『Are You Serious?』である。「マジで? 君がレコード出すの? 嘘だろ?」というユーモアたっぷりの自虐的タイトルも最高だが、それ以上に神々しいまでの光を放つのが、だれもが認めるだろう“ビートレスク”な楽曲群である。ポール・マッカートニーでさえ思いつかないであろうトリッキーなリズムに、エッジの効いたギターアレンジ、そこに端正なメロディが乗せられて……。その完成度の高さは、一見するとアヴァンギャルドだが、実は計算され尽くした完璧なデザインが施されていて、むしろ機械式腕時計の王道をゆくパテック フィリップのノーチラスのような名機を彷彿させる。

こんなものを聞いてしまったら、さらなる刺激を欲してしまうのは無理からぬこと。しかし、結局は最初の感動を超えるブツに出会うことはなく、はじめからこれで満足しておけばよかったんだと気づくのである。心の奥底では、まだもっとすごいのが何処かにあるにちがいないと思い、日夜インターネットの世界をさまよっているのだが。人間とはなんと強欲な生き物であろうか。

そこにつけ込み、Van Durenの作品をヴァイナルリイシューしてしまうomnivore recordingsのようなレーベルは本当にタチが悪い。

http://omnivorerecordings.com/shop/are-you-serious/

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