Peter Gallway - Ohio Knox (1971)
訃報を目にするたびに、まだまだ若いのにと嘆くと同時に、己の残り時間について考えてみたりもする。つい最近も、音楽評論家の小尾隆氏が亡くなったことを知ったばかり。『Songs』(1997)をはじめとした氏のテキストは20代前半の田舎者にはバイブル同然だった。
米国ロックやソウルの素晴らしさについて、ロックおじさんのように独善的な主張を撒き散らすのではなく、あくまで客観的な事実を丁寧に積み重ねながら、それらが生まれた風景を(行間に情熱を滲ませながら)、丁寧にかつ簡潔に描こうとした、そんな真摯な姿勢が好きだった。
僕がもっと好ましく思っていたのは、その偏愛ぶりである。当然テーマによってはThe BandやThe Rolling Stonesなどについても触れるが、氏の熱い眼差しは徹頭徹尾、音楽産業のメインストリームからこぼれ落ちてしまったものに向けられていた。Peter Gallwayのソロデビューアルバム『Ohio Knox』も、その一枚だろう。
2023年に聴いても、才気あふれる粋なサウンドは、古今亭志ん生の落語のようでもある。もちろん、どちらも音でしか体験したことがないわけだけど。盤に刻まれた情報を頼りに想像を膨らませ、あるいは資料を渉猟し、思考に思考を重ねた末に、そのルーツに想いをはせること--そんな音楽の楽しみ方こそ、小尾氏が教えてくれたことではなかったか。
個人的なハイライトは(全曲!と言いたいところだが芸がないので、絞りに絞って)繊細かつ骨太なリズム隊がダイナミズムにあふれる楽曲を盛り上げる挨拶がわりの1曲目が終わった直後、絶妙な間合いとトーンで鳴らされるスネアの一発で音楽讃歌へと雪崩こむ、冒頭の2曲--Taking It Easy〜Land of Music--ということになるだろうか(ほんとは4曲目のCalamity Janeまで)。至福のひとときである。