The Long Ryders - Psychedelic Country Soul (2019)
雨ふりしきる肌寒い春の午後、人里離れた日本のディープサウスに暮らす農夫は、いただきもののワインをちびちびと、いや、途中からごくごくとやりながら、このアルバムを聴いている。半径50km以内では、そんな物好きはこのしがない農夫くらいかもしれない。そもそも2019年にThe Long Rydersの新作が出る!と狂気した酔狂がこの日本に何人いたというのだろう?
このレコードの何がいいって、やっぱこのタイトル--"Psychedelic Country Soul"に尽きる。このサウンドに相応しいタイトルは他にない。
そもそもThe Long Ryders周りの“ペイズリーアンダーグラウンド”と括られていたバンドたちが志向していたのは、ざっくりいうと1960年代のサイケデリックミュージックのリバイバルだ。Rain Parade、Dream Syndicate、Threes O'Clockあたりを聴けば、その意味するところがわかるはず。あのBanglesだって初期はレニー・ケイのNuggetsに触発されたかのような60'sガレージなパンクバンドだ。
※Paisley Undergraoundのプレイリストがあった。
https://music.apple.com/jp/playlist/ペイズリーアンダーグラウンド-ベスト/pl.e16ef2a794af4c48bf3122768ef2161f
などと適当にキーボードを打ちながら、このムーブメントの源流はレニー・ケイだったのかもしれないと思った。だいたい、"Paisley Undergraound"というネーミングだって、東海岸カルチャーに対する愛憎半ばする執着を感じさせるものだ。
The Long Rydersは、そんな新世代の音楽オタクによる音楽オタクのためのシーンで頭角を現したわけだが、そのサウンドは、ペイズリーシャツというよりも、ヌーディー スーツのほうがお似合いだった。それはカントリーとロックンロールの融合を体現するものであり、その象徴がGram Parsonsというわけだ。
カントリーミュージックラバーであるStephen McCarthyと、Gram ParsonsフリークであるSid Griffinらがめざしたのは、Punkムーブメントを批評的に解釈しつつ、The Byrds由来の12弦ギターをアグレッシブに掻き鳴らす(ただ演奏が下手なだけだったかもしれない)Cosmic Americanなロックンロールだ。
もちろん、同じ西海岸発のバンドであり、1960年代から活動(今も!)するThe Flamin' Grooviesからの影響も少なくなかったはず。ちなみに、The Long Rydersの"I Want You Bad(NRBQのカバー)"は、明らかにThe Flamin' Grooviesバージョンがベースだし(多分)。
またしても前置きが長くなってしまった。
そう。今日は『Psychedelic Country Soul』の話だ。
32年ぶりだという本作に、1980年代初頭のようなアグレッシブさはない。とはいえ、角が取れて丸くなったというわけではなく、むしろ不要な雑味成分が取り除かれたことで、より個性が際立つようになったというべきか。彼らが80年代に残した作品群に比べても遜色ないどころか、洗練度という意味では最高傑作。ほのかな土臭さと熟成感を感じさせる素晴らしいピノノワールのような味わいだ。
個人的には、Gram Parsonsのソロ作を彷彿とさせる"California State Line"、オルトカントリーの源流と呼ばれるバンドらしい"Gonna Make It Real"など、Stephen McCarthyの楽曲がとても良かった。
そして、最後の"Psychedelic Country Soul"は、次世代へと繋ぐ"ペイズリーアンダーグラウンド"讃歌のようでもある。
https://music.apple.com/jp/album/psychedelic-country-soul/1577264774