Bonnie Raitt - Give It Up
美人すぎる、とか、男勝り、とか、そんなことを公文書に使用するならともかく、口にしただけで、やれルッキズムだとか、セクシズムがどうたらなどと非難されてしまう令和という時代は、昭和生まれのおじさんにはやや窮屈だ。ただし、豊かな表現が失われることに対する寂しさよりも、そうした言葉によって不快な想いをする人の存在を軽視してきたことは確かなので、その反省の念の方が強くもある、そんなご時世ではある。
そんな、ジェンダーがどうだこうだとか、そんなややこしいことを抜きにして文句なしに“カッコいい”(こういう表現もダメなのかな)シンガー/ギタリストが、僕が敬愛する米国の国宝、Bonnie Raittだ。コクのあるフレーズとコシのあるリズムを繰り出すギターと、ほどよくブルージーな歌の大ファンなので、彼女のギターと歌さえあればそれで満足だし、そこに敬愛するEric Kazの楽曲が収録されていればもう完璧。文句なしに名盤だ。
Eric Kazといえば、Love Has No Pride(Written by Eric Kaz and Libby Titus)ほか、さまざまなヒット曲を手がけたソングライターとしても知られるが、彼の出世作とも言えるLove Has No Prideを最初にカバーしたのは、僕の知る限りBonnie Raittだ。Linda Ronstadtのヴァージョンがリリースされたのは、そのちょっとあと。いずれも甲乙付け難い名演だが、行間のニュアンスがまったく異なって聞こえるのが面白い。
But love has no pride
when I call out your name
And love has no pride
when there's no one to blame
But I'd give anything to see you again
プライドが邪魔して、あなたの名前を大声で呼んだりはできないし、
自分のことだって棚にあげてしまうけど、
またあなたに会えるのなら、プライドでもなんでも捨てるわ!
(どうしても女性言葉で変換されてしまう)
というような意味の歌詞なんだと思うのだけど、「強すぎるプライドゆえに愛する人の名を叫べない心情をさらけ出す」Lindaヴァージョンに対し、Bonnieヴァージョンは、「私だってプライドがあるから、追いすがったりはしないけど、でも、あなたに会いたいとは思うのよ。本当よ」というような、静かに燃える情念を、想いを寄せる相手に向かって、問わず語りに語りかけるような、そんな情景を描いてみせる。そんな両者の対比も面白い。
同曲の収録は、同時期にEric Kaz - If You're Lonely(1972)を手がけていたプロデューサーMichael Cuscunaのアイデアだったのかもしれないが、その後もTakin My Time(1973)収録の“Cry Like A Rainstorm”、あるいはHome Plate(1975)収録の“I'm Blowin' Away”、Sweet Forgiveness(1977)収録の“Gamblin' Man”、Green Light(1982)収録の“River Of Tears”などなど、断続的にEric Kaz作品を歌うBonnie自身、相性の良さを感じていたのかもしれない。またその手腕はいつも、素材のピュアな味わいを損なうことなく、細やかな仕事によってその魅力を濃縮、増幅させる日本料理の名人のように実に見事。ただ単純に、こんな大人になりたいと思わせてくれる、憧れの音楽家である。
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