Emitt Rhodes - Emitt Rhodes (1970)
梅雨明けしたのかどうかわからないが、辺りにはむっとするような夏の匂いが立ち込めていて、自作のハイボールを一杯やるくらいではどうにもならないほどの、息苦しさである。東洋の島国の、そのまたこんな僻地にも、ファンがいると知ったら、故人は喜んでくれるだろうか。“ワン・マン・ビートルズ”こと、Emitt Rhodesの話だ。
1970年代にはBillboard Hot 100クラスのヒットがあったとは言え、その楽曲のクオリティに比べれば、まだまだアンダーレイテッドな存在だと言わざるを得ないが、そんななか、彼の遺産を受け継ぐ若い音楽家が増えている。
たとえば、近頃新作アルバムをリリースしたMichael Raultもその1人だろう。緻密なアレンジや、サウンドの感触、ドラムサウンドなどは、明らかにEmitt Rhodes、あるいはTodd Rundgrenのレコードを参考にしたはずだ。
あるいは、Black Keysのツアーメンバーとしても知られるAndrew Gabbardが2021年に発表したソロアルバムのタイトルは、ズバリ『Homemade』。歌も楽器の演奏もすべてAndrewだけ。Emitt Rhodesの1stアルバムが当初、『Homecooking』というタイトルだったというエピソードを否応無く思い出してしまった。しかも、アルバムの終曲はご丁寧に、Emitt Rhodesの名曲カバー"Promises I've Made"である。
すべての楽器を操り、たった1人であの音世界を構築したというスタイルが、ウイルスが猛威をふるった2020年以降の世界にフィットした、という背景もあるのだろう。でもそれ以上に、シュールに逃げることなく、あくまで大衆エンターテインメントに徹した表現スタイルと、ミューズを振り向かせようとした崇高なサウンドが、情報過多の時代の荒波を軽々と乗りこなす若い音楽にとって、よりいっそう光り輝いて見えたのかも知れない。何れにせよ、個人的には嬉しい潮流だ。
余談だが、Andrew Gabbardがカバーした"Promises I've Made"もそうだけど、僕の大好きな"Somebody Made For Me"などは、多分ピアノで作られた楽曲だ。後者のヴァース部分の半音進行などは、ピアノ方が思いつきやすいはずだから。
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