バーチャルプロダクションの正しい理解と活用法 ー その2
去る6月26日(月)18:30より東京都千代田区のWATERRASCOMMONホールにて開催された6月開催VFX-JAPANセミナー「バーチャルプロダクションの正しい理解と活用法」の内容について、続きの投稿です。
もし、まだ前投稿をお読みでない場合は、以下をご参照ください。
さて、本投稿では、ハリウッドでどうやって今の形のデジタルプロダクションができてきたか、その過程についてご紹介していきたいと思います。
デジタル技術、中でもCGが映画制作に使用されたのは、1982年「トロン」(ディズニー)が最初だと言われています。
当時、私は16歳、田舎の高校生でしたので、CGがどのようなものか、一体どうやって作られているのかなど知る由もありませんでした。ただ、それは結構衝撃的で、映像制作というのはものすごいアナログな世界、ミニチュアを手作りして、フィルム撮影するというものだと思っていた中で、CGなんていう得体の知れないものが出てきたぞという感じがしました。残念ながら、それほどエポックメーキングだった本作も、米国アカデミー賞では「CGによる映像なんて卑怯だ」という理由で総スカンを食ってしまいました。まあ、昨今の生成系AIと同じですね。
そんな中、「スターウォーズ」シリーズの生みの親である映画監督のジョージ・ルーカスは、このデジタル技術を使えば映像表現が変わると感じ、自分の会社内でデジタル技術を使った映像制作に関する研究をスタートさせるわけです。それが、のちにAdobe Photoshopなどのデジタル画像編集や、フィルムやテープを使わないデジタルノンリニア編集に繋がっていきます。
では、最初に大きな変革となったプリビズ技術について紹介しましょう。
1)プリビズ ー ポストビズ
プリビズというのは、プリ・ビジュアライゼーションの略で、事前映像化作業を表す言葉です。最初のプリビズは遡ること1983年の「スターウォーズ/ジェダイの帰還」のスピーダーバイクシーンで行われたと言われています。森の中を縦横無尽に空飛ぶバイクが走り回るというシーンなのですが、まだデジタル合成なんてできない時代、どうやればいいか途方に暮れてしまったスタッフは、ミニチュアを使って撮影シミュレーションをすることを思い付きます。
なんとかこれでうまく撮影できたのですが、シミュレーションのためにミニチュア作るとか、予算的に厳しいということもあり、その後、あまり活用されることはありませんでした。しかし、デジタル技術の進歩で、3DCGが手軽に作れるようになり、もっとうまくプリビズができるようになったのです。
そして、少しづつ技術的改良が加えられつつ、1999年の「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」から本格的に活用されるようになりました。ルーカスフィルムの3階に、世界初のプリビズ専門会社「JAK FILM」が設立され、運用をスタートさせます。
プリビズには、撮影前に事前にチェックするだけではなく、撮影後のポスト作業をシミュレーションする工程もあり、それはポスト・ビジュアライゼーション、略してポストビズと呼ばれました。また、撮影方法についての技術的なチェックを行うテクニカル・ビジュアライゼーション=テックビズという手法も開発されました。様々なプリビズ手法を使い、制作方法を効果的に進めることができるようになったのです。
まとめてみましょう。
まず、問題点がありました。
1)台本では、制作意図が伝わりにくく、どのような撮影を行うかが明確でない
2)撮影ショットに対して、どういうポスト処理が必要か明確でない
3)イメージボードだけでは、撮影素材として何が必要か明確でない
これらの問題は、撮影の内容だけではなく、何を必要としているかがわからないことによって、撮影やポスト作業に大きな負担が生じてしまうという深刻な課題でありました。実際に、当時はだんだんと3DCGの使用や合成作業が増え、演出内容も複雑化してきており、撮影やポスト処理に時間と費用がかかり、制作を大きく圧迫していたのです。上映に間に合わないということも出てきていました。そこで使われたのがプリビズ技術だったのです。
プリビズによって、各問題が大きくクリアされていきました。作業が明確になったことで、余計なところに労力を割く必要がなくなり、時間と費用の節約だけでなく、クオリティ向上も可能となったのです。
私は、効率化という言葉はあまり好きではありませんが、まさにDXによって作業効率改革が実現され、パイプラインが大きく変わりました。
JAK FILMはスターウォーズの制作終了後に解散となりましたが、そのメンバーたちがハリウッドでプリビズ会社を次々に立ち上げ、今では一つの産業として成り立っています。プリビズ作業に充てる費用は、全制作費の2〜5%と言われています。ハリウッドにおける映像制作の平均的な予算は100億円なので、一つの映画作品を受け持つと2〜5億の収入が見込まれます。現在、プリビズ会社は世界中にあり、欧米をはじめとする世界中の映像制作のプリビズ作業を請け負っています。このことを考えれば、欧米の映像業界における大きな産業改革であったことは間違いありません。欧米の映画作品をご覧になる際は、ぜひエンドロールで「Visualization」というタイトルを探してみてください。
日本ではどうかというと。。。
私は、「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」が公開された当時、特殊撮影の業務についておりました。2000年ごろからモーションコントロールという特殊撮影機材を扱うためのシミュレーションを独自に開発して仕事をし、これをなんとか事業にできないものかと思案していました。
そんな時に、彼らのことを知り、教えを乞いに訪ねました。彼らは非常に良く対応してくれて、いろいろな技術を教えてくれましたね。それを日本でもやろうとしましたが、文化の違いからなかなかうまくいかず大変苦労しました。今ではCM制作ではかなりの頻度で使われています。日本では、専門の会社は私の会社だけですが、経験豊富なCG制作会社がそれを実現しています。とはいえ、映画制作ではまだ活用されているというレベルではないのが現状です。
まずはここから見直さないといけないかも知れませんね。
プリビズについては、本業ということもあって、説明が長くなってしましました。
次の投稿では、プリビズから続く、次のDXについて紹介していきたいと思います。
P.S.
発表資料をご参考までに添付します。
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