福山のレトロかわいいをめぐる旅【大学生・畑唯菜】like a local in Fukuyama
はじめまして、畑唯菜(はた・ゆいな)です。私は今、尾道の大学でデザインの勉強をしています。福山の伏見町にあるまちやど「AREA INN FUSHIMICHO」のイベントに参加したことがきっかけで伏見町に通うことになり、そこで出会った人たちにエリアを案内してもらううちに、福山の魅力にすっかり取り憑かれてしまいました。そんな私が見つけた福山のまちのお気に入りの場所を、イラストとともに紹介します。
1. 伏見町の看板
デザインの勉強を始めてから、「書体」に興味を持つようになりました。まちなかで古い看板や、文字が残っているのを発見すると、しばらく立ち止まってじっと眺めてしまう。昭和レトロなデザインを彷彿させる色使いや看板の形、独特なノリのキャッチコピー、魅力的な書体。看板ひとつから設置された時代に思いを馳せられるのも、看板探しの醍醐味です。
伏見町のアーケードにも面白い看板が下がっています。丸みのある可愛らしいデザインの「伏見町」の文字。看板の詳細にたどり着くことは叶いませんでしたが、地元の方曰く、約30年以上前からあるようです。同じ町内にある「伏見ビル」も似たような文字ですが、よく見ると「はね」や「はらい」の処理が違います。伏見町を歩く時にちょっと探してみてください。
2.純喫茶ルナ
福山の喫茶店といえば、「純喫茶ルナ(以下、ルナ)」。1956年の創業当時は、近辺に喫茶店が複数店舗あったようですが、現在残っているのはルナだけ。ルナの建物には、創業者の村上さんのこだわりがあふれています。緑色の屋根にドーマー窓(ヨーロッパ建築などに見られる、屋根についている小さな窓)や半円形アーチの窓、外観を覆うレンガ。初めてルナを訪れた時、螺旋階段にシャンデリアという豪華な内装に驚きました。
ルナの洋館風の建築と内装は全て、デザイナーに依頼したそうです。創業当初は1階のみで営業していましたが、改装を重ねて現在の3階建ての状態になったそう。3階建ての喫茶店に馴染みがないので、ルナの螺旋階段を登るのが私の密かな楽しみです。
ルナの裏口付近の壁にも、不思議な形の看板があります。まるで宝石のような形。よく見ると、「中南米音楽」という文字が書いてあります。ルナがオープンした1956年はクラシックのレコードを流す「名曲喫茶」が流行した時期ですが、村上さんの趣味で中南米音楽を流していたのも面白いポイントです。純喫茶ブームが起こったのも1960年代に入ってからなので、ルナは全国的にみても先駆けといえる存在だったのではないでしょうか。今ではもうその音楽は店内で流れていませんが、オープン当時は中南米音楽とコーヒーを楽しみに聴きに来る人たちがいたのかも、と想像してみるのも良いですね。
そして、ルナと言えば「プリントップ」が有名ですが、私のオススメはモーニング。単品で選べるメニューもあり、自分好みのモーニングセットが楽しめます。セットもボリュームたっぷりで魅力的なのはもちろん、何より地元の人たちも通うローカルの空気感を感じられるのが楽しいです。
3.AREA INN FUSHIMICHO
元町から路地を抜けて、「AREA INN FUSHIMICHO」へ。レセプションとカフェラウンジが併設された空間の壁には、鞆の浦の風景のほか、伏見町内にある「サムライデリカテッセン」のサンドイッチや「純喫茶ルナ」のプリントップなど、福山の風景や食べ物が描かれています。作者はイラストレーターのエイドリアン・ホーガンさん。イラスト好きとしては、ついまじまじと眺めてしまう。まるで空間自体がギャラリーのよう。初めて見た時より、通い続けた今の方が、壁に描かれているものがどの店のものなのか分かるようになったので嬉しいです。ちなみに、この日はカフェラウンジで青いレモネードを注文。グラスの中の小さな海がとてもきれいでした。
4. IKEGUCHI MEAT PUBLIC HOUSEのお弁当
福山に行くとつい立ち寄ってしまうのが、伏見町にある「IKEGUCHI MEAT PUBLIC HOUSE」。古いビルをリノベーションした空間で、1〜2階が店舗、3階〜5階はAREA INNのゲストルームになっています。店舗のデザインコンセプトは「肉屋のバックヤード」。ガラス張りの正面やコンクリート剥き出しの壁面、配管をインテリアとして取り込んでいるところがかっこいい。伏見町内でも際立つデザインですが、新店と老舗の空気感の行き来を感じられるのもこのエリアの魅力です。もちろん、福山でローカルから愛される和牛専門店「池口精肉店」がプロデュースした店なので、安心の美味しさ。初めてなら、まずはミンチカツ弁当を。この美味しさは絵で伝えきれない!
5. 大黒町
赤煉瓦の通りと深緑のガス灯の色合いが素敵な大黒町(だいこくちょう)。付近の交番や銀行など多くの建物が煉瓦造りになっていて、この通りだけ大正時代にタイムスリップしたかのような気分が味わえます。町全体のデザインは、福山自動者時計博物館の館長であり、福山で不動産事業を営む能宗孝(のうそう・たかし)さんが発案したもの。昔からあるカメラ屋や呉服屋、魚屋などがお店を畳む際に土地を買い取って外観を改装し、能宗さんが留学経験のあるアメリカや、横浜の居留地・神戸の本町の風景など、実際に見て良いと思った要素を積極的に取り入れてきたそう。
例えば、三木耳鼻咽頭科医院の時計台は、札幌で見た時計台に影響を受けて、ヨーロッパ製の塔時計を輸入したもの。今でも院長が1日に3回、時計台に登って鐘を自ら鳴らしていると聞いて驚きました。さらに、医院の敷地内には能宗さんコレクションの外国車が2台あって、私のお気に入りは緑のクラシックカー。赤煉瓦の通りとクラシックカーの緑のコントラストが美しく、大黒町に行くとつい見に行ってしまいます。
6. ザ・スナック
新しいお店が増える伏見町で、「ザ・スナック」の看板は異彩を放っています。男女がカウンター越しに向かい合う姿が描かれた、一度見たら忘れられない味のある絵。営業している日の夜は、看板に明かりがついてより魅力が増しています。
「ザ・スナック」はその名前の通り、長年本物のスナックとして営業していました。しかし、そのオーナーさんがスナックを閉じる話を福山で飲食・宿泊業を営む古賀さん(現オーナー)が耳にして、そのまま居抜きで引き継ぐことに。L字カウンターや丸いランプなどは残しつつ、外観はスナック独特の閉鎖的なイメージを払拭するため、ドアにガラスをはめ込んでなかの賑やかな様子が伝わるように工夫したそう。看板のイラストは、福山の工務店「1/1スケール」の池田さん作。「酒とタバコと男と女を、昭和感の漂う下手ウマ風なイラストで描いて欲しい」というオーダーを受け、何度も修正を重ねながら古賀さんの持っているイメージを看板に落とし込んだそう。
今は日替わりで店長が変わるシェアキッチンやコミュニティスペースとして営業しており、お店を持たない人でも気軽に出店やイベントをできる場所になっています。実は私もここで1日店長をしたことがあるのですが、カウンターテーブルが低く、イス同士の距離が近いスナック特有の空間のおかげで自然と会話が生まれていました。はしご酒のついでに、ぜひ寄ってみてください。
レトロをめぐる福山の旅、いかがでしたか? いつかみなさんにお会いできることがあれば、その時はぜひ、伏見町で。
【プロフィール】
畑 唯菜(はた・ゆいな)
尾道市立大学美術学科デザイン領域2回生。「Little Setouchi」のデザインパートナー。2020年4月より1年間休学予定。将来の夢はひとりで出版社をすること。
https://yuinahata.tumblr.com/
Twitter:@yuina_hata
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