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50歳からの起業。危機管理分野での経歴を生かし、KYC業界のシステム化・自動化を目指す

企業間の健全な経済取引に必須なKYC(顧客確認/Know Your Customer)と顧客デューデリジェンス。社会や行政が企業へ求めるコンプライアンスチェックの水準は、AML(anti-money laundering)の厳格化を背景に、ますます高まっています。

2018年10月に設立したKYCコンサルティング株式会社は、「日本に健全な経済取引を実現する」をミッションに掲げ事業を展開。企業のリスク管理とコンプライアンス強化を支援するWEBサービス型反社チェック・コンプライアンスチェックサービス「RiskAnalyze」の提供や、コンサルティングを行っています。

今回は、起業のきっかけやシニアアントレプレナーとして大切にしている考えについて、KYCコンサルティング株式会社 代表取締役 飛内 尚正さんにインタビューしました。

<プロフィール>
KYCコンサルティング株式会社 代表取締役
飛内 尚正(Tobinai Naomasa)
中央大学卒業後、海上自衛隊で幹部自衛官として勤務。
20年以上にわたり、国内の危機管理会社で企業不祥事、事件・事故対応、反社対応、マネロン対応、労務紛争対応などの実務経験を積み、それらの未然防止のコンサルティングも手がけた。
現在は、日本において健全な経済取引を実現するため、KYC(顧客確認)とコンプライアンスに特化したリスクマネジメント事業を展開している。

KYC業界のシステム化・自動化を目指し、シニアアントレプレナーとして起業

──創業の経緯を教えてください。

飛内:大学卒業後、海上自衛隊 幹部自衛官として勤務していました。その際、危機管理への関心が高まり、企業の危機管理分野でリーディングカンパニーとなっている企業に転職しました。そこで20年間、企業不祥事の未然防止コンサルティングやマネーロンダリング対応など、さまざまな実務を経験しましたが、KYC業界が依然として手作業中心の労働集約型であることに限界を感じ、テクノロジーの進化に対する焦りを抱えていました。

特に、大企業や金融機関ではコンプライアンスチェックが進んでいる一方で、日本経済を支える中小企業は資金やノウハウの不足から、十分なチェックを行わずに取引を進めることが多く、結果として信用を損なう事例も多く目にしてきました。中小企業が手軽に利用できるインフラを整備することが、日本社会全体の健全化と経済の活性化に繋がると考え、コスト削減、スピードの向上、データの正確性が必要だと強く感じました。そのため、社内でシステム化・自動化の必要性を提案しましたが、実現は難しいと判断し、2018年にシニアアントレプレナーとして起業しました。

──50歳を過ぎてからの起業は大きな挑戦だったと思いますが、どのように決断したのでしょうか?

飛内:周囲に起業している人は少なく、若い頃から起業を目指していたわけでもありません。ただ、企業で働く中で、このまま組織に留まり取締役として老後を迎えるか、それとも社会を変え、困っている人たちをサポートするためにチャレンジするかという二つの選択肢がありました。チャレンジした方が後悔しないだろうと感じ、起業を決意したのです。

また、サラリーマン生活の後半では、ブロックチェーン協会のリスク管理部会の立ち上げに関わる機会がありました。そこで多くの起業家や新しい技術に触れる中で、新たな発見や気づきを得ることができ、この経験も起業を考えるきっかけになりました。

──独立のリスクとリターンのトレードオフについてはどう考えましたか?

飛内:50歳を過ぎてからの起業だったので、もちろん失敗のリスクは考えましたが、20年以上の経験から「うまくいく」という確信がありました。私自身、古い業界に身を置いていましたが、ブロックチェーンやフィンテックといった新しい分野に関わることで、従来の業界を変えていけるのではないかという希望もありました。

──シニアアントレプレナーとしての強み、大事にしていること、モチベーションの保ち方について教えてください。

飛内:アントレプレナーにとって大切なのは、バックグラウンドを常に磨き続けることです。私も、自衛隊や企業で培ってきたバックグラウンドを今の会社で磨き続けています。バックグラウンドを活かすためにも、過去にしがみつくのではなく、アップデートし続けることが重要です。

年齢を重ねるにつれ、日々の充実感が大切だと感じるようになりました。今は自分のビジネス人生の集大成として、1日1日をいかに濃くできるか、やるべきことをしっかり考えるようにしています。また、社員の人生を預かっているという責任感も、私のモチベーションを支えています。

リスクマネジメントを基盤としたデータベースの強み

──シリーズCを迎えている貴社の強みは何ですか?

飛内:当社のビジネスの根幹はデータベースです。「早い・安い・正確」が特長で、今後はカバレッジの拡大や様々なデータベースの高度化などを目指しています。低コストであることから、中小企業でも導入しやすいものとなっています。

加えて、データベースのバックグラウンドにリスクマネジメントの考え方があることが強みです。私たちは単なるシステムやデータ会社ではなく、リスクマネジメントのノウハウを活かし、お客様に必要な情報を提供しています。例えば、既存の取引先に問題が発生した際の対応方法や、契約解除の判断などをサポートできます。私を含め当社のスタッフがこれまでやってきたリスクマネジメントの知見が基盤にあり、これは海外も含めた他のデータベンダーにはない特長だと思います。

──事業を行うなかで、こだわりはありますか?

飛内:私たちは現在、法人のお客様を中心にサービスを提供しています。これまで、周囲からは、BtoCへの展開も検討すべきだという意見をいただくことがありました。確かに、BtoCの市場は大きく、契約先も多いため、そうした展開を考えたこともありましたが、私たちは一貫してBtoBにこだわってきました。結果として、それが正しい選択だったと感じています。

KYCを行うのは主に法人であり、その多くがBtoBの取引です。特に、私たちが扱うコンプライアンスチェックの情報は機密性が高く、慎重に扱わなければなりません。BtoCに展開すると、個人が興味本位でサービスを利用し不適切に情報を扱うリスクもあったため、当時はBtoC展開は適切ではないと判断しました。状況が変われば、将来的に展開する可能性はあると思います。

──今後強化していく領域について教えてください。

飛内:まず、ビジネス面では金融業界の市場拡大を進めていきます。現在、顧客の約4割は金融業界、残りの6割は不動産やメーカー、HRなどの一般事業会社です。金融分野では、新しいサービスが増えていて、当社との親和性も高いため積極的に市場を広げていきたいです。

また、一般事業会社向けには、IPO準備や日常業務のDX化の支援も強化していく予定です。具体的には、不動産業界やHR業界など、成長が期待される分野への展開も視野に入れています。実際にHR業界のROXXさんとはデータ連携をさせていただいています。各業界の企業と連携を深め、課題に応じたサービス展開を進めていきます。

システム面では、データベースの拡充とAIの強化が重要です。当社のデータは主にテキストで構成されており、日本語の文脈や行間を理解することが大きな課題です。例えば、「師匠の技を盗む」という表現が、文脈によっては窃盗ではなく知的財産の侵害に該当するかどうかを判断する必要があります。現在の当社のAIでもある程度は対応できますが、長い文章になった時に、前後の文脈から考えて意味を導き出すことはまだ難しいです。さらに高度な言語処理能力の開発を進めて、システムの精度を高めていきたいです。

投資家としてではなく、ビジネスパートナーとしてのサポート

──DEEPCOREとの出会いのきっかけや、事業展開に役立った印象的なエピソードを教えてください。

飛内:DEEPCOREには、2022年にシリーズB、そして2024年にはシリーズCに投資いただきました。現在も、採用強化や資金調達の際の事業計画やピッチ資料に関するアドバイスをいただいており、非常に助かっています。また、多くのイベントに招待していただき、投資先やLP先とのコネクション作りなどもサポートしてもらっています。

担当キャピタリストの奈良さんの熱意は最初の頃から本当にすごくて、当社のビジネスを理解し、共感してくれる姿勢が印象的でした。私たちのビジネスが社会に受け入れられ、広がると確信してくださっていて、その熱意とサポートはとても心強いです。単なる投資家としてではなく、ビジネスパートナーとして、私たちの意見や判断を尊重したサポートをしてくださっています。

──一歩踏み出したい同世代の方に向けて、メッセージをお願いします。

飛内:自分の得意分野を大切にしつつも、それに固執しすぎないことが重要です。私もリスクマネジメントの分野では誰にも負けない自負がありますが、その経験だけに頼らず、新しい分野に目を向けるようにしています。例えば、ブロックチェーンやフィンテックなど、自分があまり詳しくない領域にも積極的に関わり、新たな視点を得ることが重要だと感じています。

境界を設けず、さまざまな人々と意見を交わすことで、自分のバックグラウンドをより活かすことができます。このような考え方はアントレプレナーにとって非常に重要です。

──ありがとうございました!

■会社概要
会社名:KYCコンサルティング株式会社
設立:2018年10月
コーポレートサイト:https://www.kycc.co.jp/

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