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眼科×AIの可能性を追及し、生活者へ届けるために研究から起業へ。大学発ベンチャーの挑戦

DEEPCOREの出資先であるDeepEyeVision(ディープ・アイ・ビジョン)は、AIの力で失明を減らすために設立された、自治医科大学眼科学講座発ベンチャーです。同大学医学部で准教授も務める代表の髙橋秀徳さんとCTOの近藤佑亮さんに、起業の経緯や対峙する社会課題についてインタビューしました。

<プロフィール>
DeepEyeVision株式会社 代表取締役CEO
髙橋 秀徳(Hidenori Takahashi)
自治医科大学 眼科 准教授、医学博士。東京大学医学部卒業。日本眼科学会 AI, ビッグデータ, 遠隔医療 戦略会議 委員。東京大学眼科と自治医科大学眼科で眼底の失明性疾患の研究に従事。2015年に深層学習が人の画像識別能力を超えたことを知り、深層学習の研究を開始し、2016年にDeepEyeVision合同会社起業。現在は栃木を拠点とし、自治医科大学眼科准教授として多くの失明性疾患を診断・治療しつつ、健診眼底写真読影支援システム「DeepEyeVision」を開発。

DeepEyeVision株式会社 取締役CTO
近藤 佑亮(Yusuke Kondo)
東京大学工学部電子情報工学科卒業(相澤・山崎・松井研究室、学士(工学))、
東京大学大学院情報理工系研究科電子情報学専攻修士課程(国立情報学研究所・佐藤真一研究室)在籍。国立がん研究センター東病院医療機器開発センター特別研究員、東北大学大学院医工学研究科リサーチフェロー、東京大学ジャパンバイオデザイン7 期フェロー。Computer Vision、 Machine Learning、 Multimedia の研究に従事。総務省 Innovation 採択、Softbank AI Hackathon 2019 優勝、東京大学ブロックチェーンイノベーション寄付講座採択、東京大学本郷テックガレージSFP 複数採択など。

起業への想いとAIとの出会い

——はじめに、准教授として医療現場で働く傍ら、高橋さんが起業に至った経緯を教えてください

高橋:元々は眼科医として患者さんの診察をしながら大学でも研究を行っており、現在所属している自治医大には、約10年前に赴任しました。私が起業を考えるきっかけとなったのが、東京大学 松尾豊先生の著書「人工知能は人間を超えるか」です。もうAIがこんなところまで進んでいるのかと衝撃を受け、それをきっかけに大学病院にある1万枚ほどの患者さんの画像を学習データとして、AIの研究をはじめました。当時そのような研究があまり行われていなかったこともあり、研究成果を大学から特許申請したり論文としても発表したりしました。

同時にそのAIを誰でも使えるようにサーバーを立ち上げようとしたところ、研究ではなく事業にした方がよいのではないかと、大学側に背中を押されるかたちで起業に踏み切りました。

——そこからAIを活用したサービスを広げようとしたのですね

高橋:私自身は多少コードが書ける程度で自分だけで大したものは作れませんでしたから、まずは特許を大手メーカーさんに使ってもらおうと売り込みをしました。その他、一緒に製品をつくってくれるパートナー探しの一環で、大学周辺の地元企業が集まる場でピッチもしていたのですが、2〜3年やってもなかなか話が進まず困っていたところでDEEPCOREに出会いました。

そこから医療業界や眼科領域における課題とAI活用についてディスカッションし、DEEPCORE TOKYO 1号ファンドのメンバーとして投資を受けることが決定しました。

担当キャピタリストと毎週話しているなかで、一人でやるのではなく仲間を作ったほうがいいと助言があり、高校や大学時代の知り合いと面談の機会を重ねていきました。そんなタイミングでDEEPCOREのインキュベーション拠点「KERNEL」で、現CTOである近藤に引き合わせてもらったのです。

——近藤さんはどうして参画を決めたのでしょうか

近藤:私は開発が好きで、シリコンバレーでインターンをしていました。帰国して次はなにを始めようかと考えていたとき、ちょうど「KERNEL」に出会ったんです。東大の近くにあって通いやすく、テック系で起業したい思いもあったので、とても相性がよかったですね。

「KERNEL」にある共同創業者の募集コーナーに、高橋の名前を見つけました。眼科医で准教授で…といわゆるオーソリティのポジションにもかかわらず、物腰がとても柔らかくて圧倒的に信頼できるタイプの「オタク」だったんですよね(笑)

GPUとかCPUとかコンピューターの話が大好きですし、AI黎明期にあった深層学習用のライブラリを自分でガリガリ書いて論文を執筆していたタイプの人間です。眼科医になったのも、本当は工学部にいきたかったのに、両親に医学部を勧められた背景があって。そのなかで一番カメラに触れそうだからと眼科を選んだらしいんです。エンジニア心をがっつり掴まれ、ドメインエキスパートと一緒に社会価値を生めたら面白いだろうと思ったのがきっかけです。今もこの気持ちは変わらないですね。

——息の合うパートナーが見つかり、チームとして動き始めたのですね

高橋:はい、近藤がジョインしたことで、ようやく世の中にサービスを出すスタートラインに立ちました。うまくいかない数年の間、自分でつくるのも、外注をするのもなかなか難しく、一蓮托生なチームでやっていくことが必要だと実感したので、まさにターニングポイントになりましたね。

それからまずはAIを活用した眼科向けの遠隔読影サービスをはじめました。眼底と呼ばれる目の奥の部位を撮影した画像データを観察して病気の発見に繋げるもので、人間ドックなどで実施されている検査のひとつです。
クラウドにアップロードされた画像をAIが解析し、候補となる疾患名を表示します。読影をする専門医不足の解消と診断結果の平準化が見込まれるサービスです。

これと並行してディープラーニングを用いた眼底カメラ用のプログラムの共同開発をニコンと進め、医療機器認証を取得することができました。

DeepEyeVision for RetinaStationのサンプル画像

——医療機器認証を取得するのはハードルが高い印象があります。どのくらいで進んだのでしょうか

高橋:数年かかることが多いと聞くのですが、厚生労働省が支援する「医療系ベンチャー・トータルサポート事業」に相談にいったところ、ありがたいことに私たちはトントン拍子で進み、半年ほどで取得できました。これは当社にとっての大きな強みとなりました。

近藤:私達のAIビジネスの強みはデータ・エンジニアリング・システムの3つが揃っている
ことにあると考えます。

まず、データについてはやはり自治医大との連携があることです。過去10年分の蓄積されたデータをもとに共同研究ができるのは、国内でも類を見ない競争力の源泉になっています。

エンジニアリングは東大の情報理工学系研究科という本流からTier1のエンジニアを少数精鋭で集め、そこにドメインの専門知識を注入していくことができています。ただ精度や感度を上げていけばいいのではなく、「こういう所に光が映り込むとこういう疾患に誤分類しやすい」といった医師のインサイトから修正できるのです。

そして医療機器認証を取得したことで、システムとして社会に実装されるベースができました。薬事の品質を保ちながら、実際に導入できるコストを維持して販売する。それを一台一台積み重ねていくことで、堅実にビジネスとして成立するようになってきています。

大学発ベンチャーとして社会にできること

——事業を通じて、どういう社会課題に貢献していきたいと考えていますか

高橋:治療や診断は医師によって質にバラつきがあり、属人的であることにずっと課題感を持っていました。これまでは治療方法に関する論文を出すというアプローチを取ってきましたが、読む人は限定的です。
さらに、医療は日々進化しており、学ぶべき知識は膨大な量になっています。分野毎の専門性の高まりは喜ぶべき一方で、細分化されてしまい、適切な医師にかかるまでに時間がかかってしまったり、特に地方だと眼科医がそもそもいなかったりする状況もあります。

であれば、テクノロジーで直接治療の過程に介入して、進化させられないかと考えました。診断をAIでサポートしていくことで、適切な医療へのアクセスを改善できるはずです。

まずは、日本のへき地・離島といった医療過疎地、地方で専門医がいないような施設に広げていきます。まだ始まったばかりですが、3年ほどで規模を拡大したいです。
規模が大きくなり、コストが下がっていくことで、発展途上国にも広げていくことができるのではないかと考えています。そもそもそういった地域は医療設備が乏しいため、簡単に使うことのできる製品がつくれるよう、研究も進めているところです。

——大学発ベンチャーとしてのメリットはどんなところにあるのでしょうか

高橋:自治医大には10社ほどベンチャーがあります。
大学の住所で登記ができますし、実験室を使うことができたりサーバールームを借りて置いたりもできます。PR面としては、ニュースリリースを大学のWEBサイトに掲載してもらえるので、製薬会社の方や業界関係者が見てくれることも大きなメリットです。

最近は、学会での講演に呼んでいただき、臨床医がなぜ起業したのかについて話す機会が増えました。起業家を育成したいという国の方針もあるので、後押しされている空気感を感じますね。

研究や臨床に携わる方は、実際の現場で得た課題感をもとに論文を発表していくと思うのですが、その目線が一歩広がって、世界にはこんな患者さんがどれだけいて、この研究が実際に世の中に実装されると社会がどう変わるのかを描けるようになると、起業に踏み出す人も増えるのではないかと感じます。様々な分野で研究をされている方は多いと思いますが、研究に留まらず、勇気を出してその先の生活者へ自分自身が届ける側になってほしいですね。

また、科研費とよばれる研究のための予算を申請する書類があるのですが、自治医大の場合は、書類の採点を学長直々に行っていただけます。狭い視点で書いていると指摘を受けて気付かされることが多いので、本当にありがたいです。

——今後の展望について教えてください

近藤:これまで、その時その時の画像処理AIの最先端にトライしてきました。医療機器認証を取得して、具体的な販売フェーズにも入っています。「目」は生活に欠かせない要素なので眼科×AIの可能性を考えると、もっと切り口が見つかるはずです。より技術を高度化させ、どんどんノウハウを蓄積して製品を展開していきたいと考えています。その流れを加速させ、ゆくゆくは新規事業も立ち上げていきたいですね。

高橋:具体的に直近では、製薬会社との連携も深めていきたいです。すでにベーリンガーインゲルハイムという製薬会社との共同研究を開始しました。治療法の確立や創薬に貢献することは重要で価値が高いと考えています。AIを活用することで、病状の解析が進み、知見の蓄積が進むことで、失明する患者さんを減らしていくことが私たちの目標です。

■会社概要
会社名:DeepEyeVision株式会社 (DeepEyeVision Inc.)
設立日:2016年5月10日(合同会社として設立)
事業内容:眼科向け画像診断支援AIの開発、 眼科向け遠隔読影サービスの提供
代表取締役/CEO:髙橋 秀徳
【所在地:[本社] 栃木県下野市薬師寺3311-1 自治医科大学眼科学講座内 / 東京オフィス] 東京都文京区本郷3-24-1 伊藤ビル 201号

コーポレートサイト:https://deepeyevision.com/


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