
【対談】“愚直”さと“誠実”さで、起業家と向き合う、AI分野の研究出身キャピタリスト
DEEPCOREには様々な経歴のキャピタリストが在籍しています。今回は、学生時代にAI分野の研究に取り組んでいた東 愛恵と池田 愛和に、お互いの研究内容やビジネスにおける応用などについてインタビューしました。
<対談者>
DEEPCORE キャピタリスト
東 愛恵(Megumi Higashi)
東 愛恵の過去のインタビューはこちら
DEEPCORE キャピタリスト
池田 愛和(Yoshikazu Ikeda)
AI分野の研究で培われた研究者としての目線、忍耐力
──まずは自己紹介をお願いします。
東:東 愛恵です。DEEPCOREには2024年4月に入社しました。それまでは大学院でマテリアルズインフォマティクスの研究をしていて、そのなかでディープラーニングモデルの構築や社会実装にも興味をもつようになりました。
コロナ禍になったのが大学3年生のときで、ちょうどやることが何もなくなってしまい、プログラミングを勉強しようと思ったのがAIを学び出したきっかけです。Pythonでのプログラム構築まで勉強しました。
池田:池田 愛和です。DEEPCOREには2024年10月に入社しました。もともと大学では運動×自然言語処理というテーマで研究をしていました。当時ビッグデータというワードが流行っていて、これを応用するにはAIが必要だと感じ、友人と一緒に独学で勉強・研究するようになりました。
──お互いの研究について話したことはありますか。
東:興味はあったんですが、実は今までそういう機会はなかったんです。
池田:そうですね、今までそういう話はしたことがありませんでした。
東:池田さんはどのような研究をおこなっていましたか?研究のプロセスについても聞いてみたいです。
池田:人間の運動を言語に翻訳するという研究で、体に取り付けたセンサーから取得される数値データを言語に変換していました。データのアノテーションからモデルの構築、学習、テスト、評価まで一連のプロセスをやりましたね。評価においては、アルバイトで協力者を集め、人が動いている動画とそこに一緒に表示される翻訳された文章を見比べることで、翻訳モデルの精度を評価してもらっていました。東さんはどうでしたか?
東:実際に協力者を集めて精度を評価するのは面白いですね!私は物質の結晶構造の特定が研究テーマでした。まず、研究者が作った物質がどういう結晶構造を持つのかを調べるために、X線を照射してX線吸収スペクトルという指標を測定します。通常は、そこから3次元結晶構造を特定するために第一原理計算という数日から数週間かかる計算が必要になってきます。私の研究では、機械学習モデルを利用することで、この第一原理計算にかかる時間を大幅に短縮することを目指しました。

池田:これまでは自分と同じテーマや近しい技術領域で研究している人の話を聞くことが多かったので、ドメインが異なるAIの研究の話はとても興味があります。東さんの研究内容をより具体的に知りたいです。モデル構築に用いたデータなどについて教えてくれませんか?
東:「Materials Project」という物質データが格納されているデータベースから収集したデータを用いてモデルを構築していました。その収集したデータをもとに入力・出力データを作成し、入力にはX線吸収スペクトルを、出力には3次元結晶構造を用いていました。3次元結晶構造は様々な原子が複数個構造内に存在し複雑なので、どのように数値的に表現するのかという点が重要な課題でした。
池田:難しいですね。8割ぐらい理解できませんでした(笑)。僕の研究はもう少しわかりやすいかと思います。まず、慣性センサーを人の肘や腰など体のキーポイントに取り付けます。そのセンサーから得られたデータを基に、仮想空間上で相対的なキーポイントの位置、角度などを割り出します。そして、その身体データを入力として与えます。例えば3秒間分(90フレーム分)の数値データをモデルに入力として与えるわけですね。その3秒間でどんな動きをしているのかを翻訳し、自然言語で出力していました。例えば皿を洗っているような動きをすると「皿を洗っています」と、言語が出力されるという仕組みです。
東:かなり実用化に近いレベルですね。
池田:製造現場や介護施設の危険検知などでも応用があり得ると思っていました。ちなみに、新体操ではすでに実用化されていて、実際にどんな技を行っているかを言語として検出するなどに活用されています。また逆に、言語から身体データにするということも海外の研究者が発表しています。「ボールを投げる男の人」と伝えると3Dキャラクターがボールを投げるような動きを生成するというようなものです。
東:「逆にする」とは難しいですね。単に出力と入力を変えるだけではないので大変そうです。
池田:本当に大変なんです。僕は結局、その研究をやらないまま終わりました。
東:私も入力、出力を「逆にする」ことに挑戦した経験があります。試行錯誤するなかで、いろいろなアプローチを試しました。アプローチ方法自体を変えることもあれば、モデルを変える方法もある。モデルの精度を高めるためにパラメータをチューニングするというようなこともありますよね。
池田:よくわかります。パラメータを調整して終わればいいのですが、なかなかそう簡単にはいきません。結局仮説ベースでいろいろなアプローチを試さないといけないケースが多いというのは、研究者あるあるですね。

ビジネスにおける「技術」の価値は、いかに使う人目線に立てるかで決まる
──研究を活かしてサービスを作ろうと思ったことはありますか。
東:大学院の授業中にこっそり内職していたものになるのですが、一つ思い当たるものがあります。当時、上場株の売買をしており、株価予測サービスを作ろうと試みたんです。そのためにまずデータを買うのですが、自分で買える範囲では全然足りなくて(笑)。しっかり予測するには数年分の株価データとその背景の情報が必要で、当時の自分には実現が難しいと感じ断念しました。その話は置いておいても、研究をビジネスに応用することは、やってみたい気持ちがありながらも、正直どのようにしたらいいのか分からないところもありました。それを学びたいなと思ったのが、DEEPCOREに入ったひとつの理由でもあります。
──技術とビジネスの架け橋となるためには何が大事だと思いますか。起業家たちは何を意識するべきでしょう。
池田:僕もそうですが技術系の起業家は、研究している技術を活かしたいという気持ちが先行していると感じています。でも、実際にビジネスに活かしていくためには、使う人(顧客)がどう感じるかを考えることが重要だと思うんです。
東:私も同感です。研究をしていると、その研究自体が好きになってくる。一方で、そこにニーズがあるかどうかもVCの観点からはとても大事だと感じます。

AI研究出身者がキャピタリストとして今、できること
──先ほどパラメータの調整、違うアプローチ、という話も出ましたが、それはビジネスにもいえることかもしれません。研究畑にいらっしゃっただけあって、お二人は視点をずらす、やり方を疑う、ということには慣れているのでは。
東:そうですね。パラメータを動かしたらどう変化するか。それを突き詰めて考えるということ自体が好きです。そのうえで研究にも愚直に向き合ってきました。仕事ではVCという立場で起業家の方と一緒に向き合って、何かを愚直に突き詰める、試していくというところを頑張りたいと思います。今は、質問をいただいてもすぐには答えられないことも多いので、先に質問をいただいて自分で愚直に調べ、ディスカッションできるようなインプットまでもっていけるように心がけています。
池田:東さんがとても丁寧な市場調査・分析資料を作って起業家に喜んでもらったという話を聞いています。僕もぜひ見習っていきたいです。
──最後に、こういう依頼は、ぜひ自分にしてほしいというものがあれば教えてください。
東:手元にデータはあるけど、これで何ができるだろう、とお考えの方がいらっしゃれば、ぜひまずは一次的な提案をさせていただきたいと思います。そして具体的に応用していく段階になれば、DEEPCOREの人材・エンジニア紹介のノウハウを活かし、目的達成に貢献できると思います。
池田:僕は頻繁にイベントに参加するようにしていて、他のVCや有識者とのネットワークができてきました。他の方の考える投資仮説を参考にしたり、業界の有識者の方の知識をインプットしたりと、起業家の方への有益なインサイトを与えられるような支援を積極的にやっていきたいです。また技術的なところでは、論文を精査して技術動向を調査することもできますし、そのほかでも調査ごとがあればしっかり応えていきたいと考えています。
東:池田さんは、起業家に対して最後まで向き合う誠実なタイプだなと見ていて感じています。
池田:初めて聞きました(笑)。
東:一つのことに対してしっかりアウトプットを出すことに関しては、とても徹底されていると思います。これをやると決めたら最後までやりきると思いますよ。
池田:恐れ多いです(笑)、ありがとうございます。
──お二人ともありがとうございました。
<プロフィール>
東 愛恵(Megumi Higashi)
DEEPCOREで投資業務に従事。大学在学時に材料工学を専攻しつつ、AIの基礎からpythonでのデータ分析・モデル構築を体系的に学び、JDLA E資格を取得。その後AI教育スタートアップで法人向けAI関連講座の開設に携わる。大学院在学時にマテリアルズインフォマティクスの研究に従事しながら、インターンとしてDEEPCOREに参画。2024年3月に大学院修了、4月新卒入社。
池田 愛和(Yoshikazu Ikeda)
DEEPCOREで投資業務に従事。学部時代に専攻していた数理統計学の知識を活かしてAIについて体系的に学び、大学院では運動×自然言語処理というテーマで研究に従事。大学院在学時、(株)松尾研究所においてAIを活用した新規事業開発チームに参画。その後、自然言語処理AIスタートアップにて研究に取り組みつつ、事業部門の責任者として事業開発に携わる。大阪大学基礎工学部卒、大阪大学基礎工学研究科修了(工学 修士)。
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