屋根から広がる再生可能エネルギー。Yanekaraが拓く脱炭素社会への挑戦
カーボンニュートラル実現に向けた脱炭素化の取り組みは世界で加速しており、日本は2030年に温室効果ガス46%削減、2050年にはカーボンニュートラルの実現を目指すと宣言しています。
そんななか、2020年6月に設立されたYanekaraは、再生可能エネルギー領域で挑戦する東大発のスタートアップです。「地球に住み続ける」をミッションに掲げ、太陽光発電を余さず使い、脱炭素を実現するソリューションを展開しています。DEEPCOREは2021年、2022年にYanekaraに出資を行いました。
今回は、脱炭素を促進する事業内容、技術の社会実装について、株式会社Yanekara共同代表の吉岡大地さんにインタビューしました。
「屋根から」再生可能エネルギーを普及させていきたい
── 創業に至った経緯を教えてください。
吉岡:アウトドアが大好きな家族だったので、僕は幼少期からよく登山をするなど、自然の中で遊んできました。そういった影響もあり、少年の頃から環境問題に目が向いていました。2011年には福島第一原発事故が起き、当時中学生ながらに「再生可能エネルギーにしていかなきゃいけない」と意識させられました。その後、環境問題を学ぶために、日本よりも再生可能エネルギー領域で10年程進んでいた、ドイツに留学しました。
共同代表の松藤は、幼少期からエネルギーに関心があり、小学6年生の夏休みの自由研究で、太陽光を集めてお湯を温めたり、目玉焼きを作ったりしていました。その経験から、小学生の時点で「太陽エネルギーで生活ができるのでは」と思ったそうです。その後、東大で研究者を目指していました。
それぞれ再生可能エネルギーに興味があることを発信していたところ、共通の友達が繋いでくれたのが出会いのきっかけです。勉強会などで交流していくなかで、2019年の元旦に「一緒にプロジェクトをやろうよ」と声をかけ、研究開発プロジェクトとして「Yanekaraプロジェクト」をスタートさせました。当時は起業しようとは思っておらず、環境問題に対して何かしらの解決手段を見出したいという始まりでした。
その後、助成金や補助金をもらいながらプロトタイプを作っていくなかで、技術を社会実装したいと思うようになり、手段を見直し、会社化してスタートアップという選択を取りました。
── 「Yanekara」という社名にはどのような意味が込められているのでしょうか?
吉岡:社名の「屋根から」は、再生可能エネルギーを普及させる手段として、山を切り開いて作るようなメガソーラーではなく、人が既に開発した場所(=屋根)に太陽光発電を置いていきたいという想いを込めています。電気も熱も電気自動車(以下、EV)などのe-モビリティに必要なエネルギーも、「屋根からの太陽光発電のみで自給可能」だと考えているからです。各家庭の屋根単位でエネルギーを自給する仕組みを作り、屋根から街へ、街から世界へと広げていく。これが社名の由来です。
Yanekaraのミッションは「地球に住み続ける」で、そのためのビジョンとして「域内回生」を掲げています。現在、世界の消費資源は地球2個分といわれています。つまり、地球全体の自然の循環に対して2倍の速さで人間が資源を消費しているということで、将来世代の資源まで使っていることになります。人間の活動を自然の循環の中に収めていかないといけない、それが「地球に住み続ける」ための「域内回生」です。
そのためには電力だけではなく、熱や衣食住も持続可能な仕組みを作らないと、地球が破綻に向かっていきます。最近は火星移住の実現可能性なども注目されていますが、地球に住み続ける方が現実的だと考えています。地球に住み続けるためには、まずは地域レベルで「域内回生」を実現し、その活動が広がることで地球規模での「域内回生」が実現していくでしょう。
EV充電コントローラー「YaneCube」と垂直型太陽光発電モジュール「ソーラーフェンス」で脱炭素を促進
── 事業内容について教えてください。
吉岡:工事不要で設置可能なEV充電コントローラー「YaneCube」や、建築確認申請不要の垂直型太陽光発電モジュール「ソーラーフェンス」といったハードウェアをベースに、現場で必要な蓄電池やEVの制御システム構築の支援事業を行っています。
物流業界を筆頭に業務用車両のEVへの転換が加速する一方で、ひとつの拠点に複数台のEVを配備すると、EVの充電タイミングが重なることでピーク電力が増大し、電気代が高くなるという課題が発生しています。また、電力インフラ全体としてもEVの充電が夕方のピーク需要と重なるタイミングで行われることで、電力の安定供給を阻害する要因となることが課題視されています。その点、「YaneCube」は既設の充電コンセントに電気工事不要で設置でき、複数台のEVの充電を事前に設定した上限値の範囲内で制御したり、事前に設定した時間に充電開始時間をシフトしたりすることが可能です。EVの中にある電池は大容量のバッテリーなので、蓄電として活用できれば自家消費で余さず使い切ることができます。
太陽光発電は陽の出ている昼間に発電するので、昼間は電気の供給が過多になる状態になっています。その状態で発電を続けると停電が起きてしまうため、太陽光発電の出力を止めなくてはいけなくなります。
反対に、夜は太陽光エネルギーが作れないため、太陽光だけでは供給量が足りなくなります。そのため、昼間に余った電気を蓄電して夜も使えるようにする技術が世界的に求められています。
「YaneCube」は2023年夏に販売開始し、現在物流会社に導入いただく事例が増えていて、日本郵便さんにも導入いただいています。物流会社は車両を使うため、SDGsという観点からもCO2排出量削減が求められている背景があるのです。
加えて、直近で力を入れているのは垂直型太陽光発電モジュール「ソーラーフェンス」です。太陽光の発電量を増やしていくための取り組みで、EVの駐車場に置く提案をしています。駐車場などの空いているスペースに設置することができ、両面パネルなので条件によっては従来の平置きのパネルよりも発電量が増加します。建築確認申請不要、基礎工事不要、汎用的な杭打機で施工可能なので安価かつスピーディーに設置できるのも訴求ポイントです。垂直型なので太陽光パネルに積雪しないため、降雪地域においても発電が可能となっています。「ソーラーフェンス」を工場などの駐車場に普及させ、そこから「YaneCube」も使ってもらう、という流れを作っていきたいです。
今年3月には脱炭素ソリューション事業を開始し、法人事業所への垂直型ソーラー、蓄電池、EVの導入の支援を行っています。一気通貫を掲げ、コンサルティングや設備設計、施工管理、EMS構築などの支援を行っています。
── DEEPCOREとの出会いのきっかけや、出資に至った経緯、印象的なエピソードがあったら教えてください。
吉岡:DEEPCOREとは2019年に出会いました。起業前の研究開発プロジェクトの頃から、DEEPCOREが運営するAI起業家/エンジニアコミュニティ「KERNEL」のメンバーでした。当時から担当の玉岡さんや田中さんと数か月に一度ミーティングを行っており、2021年の資金調達するタイミングでお声がけさせていただきました。
「KERNEL HONGO」は24時間無料で使えるので、毎日遅くまでミーティングしていました。夜には創業者3人で、道を挟んで向かい側のやよい軒に晩御飯を食べに行ったことが思い出です。創業当初は本当にお金も場所もなかったので、KERNEL HONGOをオフィスとして社外との打ち合わせをしていました。シードの投資ではビジネスモデルはもちろんですが、起業家も投資家も相手を信頼できるかどうかを見ていると思います。「KERNEL HONGO」で前々から関係性を持っていたので、そこは全く問題ありませんでした。出資を受けてから半年間は実際にメインのオフィスとして活用し、毎日仕事をする中で本郷界隈の他のスタートアップとも仲良くなれました。
── 日本の再生可能エネルギー普及率はどうでしょうか?
吉岡:海外と比べると、日本の再生可能エネルギー普及や取り組みは遅れているのが現状です。大規模な電源やメガソーラーの用地がなくなってきています。風力発電は進んではいますが、設置までのハードルが高く、今後も安価で設置できる太陽光発電が増えていくでしょう。そして日本で再生可能エネルギーを広く普及させるためには、地域に根ざした企業が増えていくことが大事だと思っています。特に日本は地震が多いので、停電などが起きた際も各家庭の太陽光発電を自宅の屋根で行えれば、電気の自給自足が成り立ちます。
スタートアップで社会のあり方を変えていける存在になることを目指して
── 開発した技術を社会実装していくなかで難しい面やハードルはありますか?
吉岡:再生エネルギー関係の事業は規制が厳しい産業です。かつ、ハードウェアが伴ってくる領域なので、高いハードルがあります。ハードウェアを作るにも時間がかかりますが、いざ完成しても許認可で阻まれたり、設置しても不具合が起きたりすることもあります。ソフトウェアのサービスであれば改修して再リリースなどもできますが、ハードウェアではなかなかそうもいかず、難しい領域です。
そうしたなかで、これまではEV充電の領域に集中してきましたが、今後は衣食住にサービスを広げるなど、より打ち手を増やしていくつかの事業で売上を安定させていくことが乗り越えていかなければならない部分だと思っています。
── 最後に、再生可能エネルギーを広げ、温室効果ガスの排出をゼロに近づけていくためには、どんなことを意識していく必要があるでしょうか?
吉岡:個人単位では、飛行機ではなくCO2排出量が少ない新幹線を使ったり、環境負荷が高い食べ物である牛肉を控えたりと、生活の中で意識できることはありますし、僕自身もしています。個人単位でも意識することで社会が進んでいくこともあると思います。
とはいえ、個人の行動だけで世の中を変えていくのは難しいため、事業という枠組みの中で変えていくことにスタートアップでやることの意味があるのです。
スタートアップの役割は新しい技術やサービスを世に出すことだと思われがちですが、僕は文化を作っていくことに役割があると思っています。例えばGoogleの働き方に憧れて私服で働く文化ができたり、リモートワークが推進されたりと、会社の影響力で社会全体に新たな視点や選択肢をもたらすことができます。インパクトのある会社になると文化を変えることができます。なのでYanekaraという会社を通じて、新しい文化を社会実装していくこともミッションにして、再生可能エネルギーに意欲的になれる文化を作っていきたいと思っています。そのためにも新しい価値観に敏感でいたいですね。
──ありがとうございました。
■会社概要
会社名:株式会社Yanekara
設立日:2020年6月
コーポレートサイト:https://yanekara.jp/