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世界シェアNo.1へ。画像認識ソフトウェアで製造業DXを推進する「Ollo」
「製造業の仕事をよりワクワクさせる」というミッションのもと、製造現場での課題解決に挑む株式会社Ollo。主力プロダクト「Ollo Factory」は、カメラひとつで工場の作業を解析する画像認識ソフトウェアです。作業現場の動画をアップロードするだけで、AIが自動的に繰り返し作業を検出。作業のばらつきや抜け、ムダを発見し、生産性向上に貢献します。
今回は、代表取締役社長の川合 健斗さんに、会社経営で大切にしている考え方やサービスの強みについて伺いました。
<プロフィール>
株式会社Ollo 代表取締役社長
川合 健斗(Kento Kawai)
2014年に筑波大学大学院コンピュータサイエンス専攻を修了。その後は東京大学松尾研究室にて共同研究のプロジェクトリーダーを複数経験。2019年にOlloを創業。
世界シェアNo.1を目指し、「製造業の作業分析」に特化した技術を磨く
──はじめに、現在の事業を始めた理由を教えてください。
川合:創業当初は顔認証事業を展開していましたが、大手企業の参入により価格競争が激化しました。このまま事業を続けるのは難しいと考え、新たな方向性を模索。そこで、世界シェアでNo.1を取れる事業は何かを真剣に考え、日本が強みを持つ製造業に注目しました。
ただ、製造業の現場についての肌感がなかったため、まずは現場に足を運び、直接話を聞くことから始めました。プロダクトが完成していない段階でしたが、顔認証事業で培った画像認識技術を応用したデモ動画を準備して提案を行いました。
現場の方々とお話しする中で、私たちの技術が製造業の課題に貢献できる手応えを感じ、この領域で挑戦することを決めました。
──製造業DXの中でも、"作業分析"にフォーカスすることで独自の立ち位置を確立したのですね。
川合:競合の中には「どんな人の動きでも分析できます」という企業もありますが、私たちはあえて「製造業における人の作業分析」に特化することで差別化を図っています。この分野は技術的な難易度が高く、開発当時は世の中にまだ良いプロダクトが少ない状況だったので、当社が持つ技術力を最大限に活かせる領域だと判断しました。
私は「選択と集中」という考え方を大切にしています。ベンチャー企業である以上、複数のプロダクトで日本No.1を目指すのではなく、ひとつの分野で世界シェアNo.1を目指すことが重要だと考えています。
世界で競争するには、中国やアメリカのような巨大企業がひしめく市場で戦わなければなりません。その中で勝ち抜くためには、徹底的に専門性を磨き、「この分野なら自分たちが世界で一番詳しい」と言えるレベルに到達する必要があります。そのためにも、やるべきことを明確に絞り込みました。
海外工場で広がる導入。AI活用で現場の作業を最適化
──Ollo Factoryの強みを教えてください。
川合:Ollo Factoryの最大の特徴は、設定が簡単でスピーディに現場へ導入できることです。一般的なAIプロダクトは、学習モデルの構築や予測に多くの手間と時間がかかりますが、Ollo Factoryは、数十秒で繰り返し作業の検出や作業時間の計測が可能です。さらに、操作がシンプルなため、多くの現場でサポートなしでご利用いただいています。
また、「One-Shot学習技術」も大きな強みです。この技術は、ディープラーニングモデルを構築する際に、大量の学習データが必要ありません。例えば、「犬を見つける」という場合、通常はさまざまな犬の画像を使って学習させますが、One-Shot学習では1枚の画像だけで十分です。つまり、作業者が特定の動きを一度実演すれば、AIがその動きを学習し、以後は同じ作業の正確さやスピードを自動で解析できるようになります。
従来の作業分析では、ストップウォッチで時間を計測し、そのデータをエクセルに手入力するなど、非効率で手間のかかる工程が必要でした。本来、データを活用して行う分析作業が最も重要で面白い部分であるにもかかわらず、そこに至るまでの準備に多くの時間を取られていたのです。Ollo Factoryは、こうした煩雑な工程を省き、データを用いた分析や改善提案といったワクワクする作業に専念できる環境を提供します。
誤解されることもありますが、Ollo Factoryは作業ミスや不正を監視するためのツールではありません。むしろ、作業者がストレスなく効率的に働ける環境をつくり、現場全体の生産性向上を支援するためのツールです。
──製造業DXは競合が多いと思いますが、導入先からはどんなところが評価されていますか?
川合:住友電装株式会社には、カンボジアの工場でOllo Factoryを導入いただいています。東南アジアの現場では、教育レベルやスキルの差があり、複雑な操作が難しい場合も少なくありません。また、グラフやデータの読み取りを苦手とするスタッフも多いのが実情です。
こうした課題に対し、Ollo Factoryは操作の簡単さが高く評価されています。その結果、半年間で14名の現地スタッフが問題なく使いこなせるようになりました。このような背景もあり、現在では日本の工場以上に、東南アジアをはじめとする海外工場での利用が広がっています。
また、自動車のインテリア内装などを手がけるマレリ株式会社では、ベテラン作業員と新人作業員の動作を比較し、その差を可視化するためにOllo Factoryを活用しました。その結果、作業のギャップを埋め、新人の作業時間を10%短縮することに成功し、残業時間の削減にもつながっています。特に、AIによる作業分析の自動化は、改善点を発見するまでに要する時間を従来の10分の1に短縮する効果を発揮しています。
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海外展開を後押しするDEEPCOREの知見とネットワーク
──DEEPCOREとの出会いについて教えてください。
川合:2021年に本郷で開催されたピッチイベントをきっかけに、DEEPCOREとの交流が始まりました。担当の左さんとは初対面からいろいろとお話しさせていただきましたが、その豊富な経験とハイレベルな議論がとても印象的でした。さらに、週1回のハンズオン支援を通じて、熱意と協力的な姿勢を強く感じました。
数多くの支援の中でも、特に印象に残っているのが、営業やカスタマーサクセスのプロセスの型化に関する議論や事例の共有です。エンジニア出身の私にとって、営業プロセスを再現性のある仕組みに落とし込むという考え方は新鮮で、左さんから学んだ知見を軸に、現在も試行錯誤しながら会社の運営を進めています。
──DEEPCOREの支援が、海外展開を進める上でどのように役立っていますか?
川合:DEEPCOREを通じて、特許関連で弁理士の方と打ち合わせをさせていただきました。海外展開を見据える上で、技術の差別化だけでなく、知財戦略の重要性を改めて実感しました。
また、DEEPCOREが出資する企業とのネットワークを通じて、グローバル展開を進めるスタートアップの事例を学ぶ機会があり、特にSaaSモデルの海外展開について多くのヒントを得ることができています。
DEEPCOREが持つ海外市場の知見やネットワークは、私たちにとって強力な武器となると感じています。こうした支援を最大限に活用しながら、海外市場での事業展開を加速させていきたいと考えています。
チームの成長を支える「人が人を呼ぶ」つながり
──チームメンバーはどのように集めていますか?
川合:これまでの採用は、メンバー同士の紹介など、人とのつながりによるものがほとんどでした。弥生株式会社の前代表取締役社長である岡本 浩一郎さんが参画してくださったのも、社員の紹介がきっかけです。ちょうど社長を退任されたタイミングで会食をする機会があり、話をする中で意気投合しました。
現在、岡本さんには会長としてビジネスサイド全体を統括してもらいながら、営業や管理などの現場の実務にも積極的に関わっていただいています。私自身は主に開発やプロダクト寄りの業務を担当しながら、岡本さんと二人三脚で会社を運営しています。
今後はOlloを広く知っていただく努力をし、より多くの方と接点を持てるようにしていきたいと思います。
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──最後に、今後の展望について教えてください。
川合:現在のOllo Factoryは撮影した動画を振り返りながら分析する仕組みですが、次のステップとして、リアルタイムで作業を分析し、即座にフィードバックを提供する機能の開発を進めています。この新機能はすでに導入実験の段階に入っています。
例えば、自動車工場で部品の取り付けミスが発生した場合、その場で作業者にアラートを出し、ミスを未然に防ぐことが可能です。これにより、作業効率の向上だけでなく、品質管理の精度向上にもつながると期待しています。
今後は、このリアルタイム機能を含むサービスを自動車部品メーカーや自動車メーカーを中心に展開し、さらに多くの製造現場で活用されることを目指します。
──ありがとうございました!
◾️会社概要
会社名:株式会社Ollo
設立:2019年2月20日
コーポレートサイト:https://ollo.jp/