自ら答えを見つける制御AI「Smart MPC」。アカデミア人材を巻き込み、AIの社会実装を進めた未来とは
「アルゴリズムで世界を変える」をビジョンに、2018年に創業したProxima Technology(プロキシマ テクノロジー)。機械学習や最適化、制御、3次元データ解析等、多くの分野において数理的なアルゴリズムの社会実装を目指し、モデル予測制御と機械学習を組み合わせた独自の制御AI「Smart MPC( Model Predictive Control)」や、データ解析ソリューションを提供しています。
DEEPCOREは、2023年8月に9,000万円の出資を行いました。今回は、経営者としてのターニングポイントとなった初めての資金調達や、制御AIを活用した未来・展望について、株式会社Proxima Technology 代表取締役の深津卓弥さんにインタビューしました。
機械が自身で答えを見つける制御AI「Smart MPC」の独自性とは
──モデル予測制御と機械学習を組み合わせた独自の制御AI「Smart MPC」とはどのようなプロダクトでしょうか?
深津:強化学習が短時間ででき、AI自身が答えを見つける制御AIです。一般的な制御AIは制御の答えを人が機械に教えるパターンが多いですが、「Smart MPC」は機械が自分で正解を見つけ自動化していく、というソリューションです。強化学習としてAIが学習し、答えを探すのには途方もないデータ量と時間がかかりますが、「Smart MPC」は独自の工夫により現実的な時間で習得することを可能にしています。
──そのような技術が開発できるのはどのような理由がありますか?
深津:「Smart MPC」が開発できる一番の要因は、高度な数学を得意とするメンバーがいることです。弊社の技術はプログラムの高度さよりも数学的な技量を必要としています。そのため、社員には数学に長けている人を中心に採用しています。
創業5年目で初めて実施した調達が経営者として大きなターニングポイントに
──大学は物理学専攻ですが、この分野での起業に至ったのはどのような経緯からでしょうか?また、ターニングポイントとなったことも教えてください。
深津:前職のAIベンチャー時代にアイディアを思いつき、周囲に相談したところ「アイディアに自信があるなら起業したらどうか」と前職のCEOに勧められたのがきっかけです。前職のCEOも技術ファーストで起業した方だったので説得力がありました。起業に際しては迷ったかどうかも覚えてないくらいで、ダメだったら就職したらいいや、という考えで始めてみました。今振り返ると、当時社会人3年目だったのもあって、まだ世の中のことを深く知らなかったのも幸いだったかもしれません。
会社としてのターニングポイントは資金調達ですね。最初の2年半は自分一人で会社をやっていましたが徐々に案件の規模を大きくし、昨年調達を行いました。今年で創業6年目ですが、調達をしたことで「成長させなきゃいけない」という意識が強まり、Xで発信したりPRをしたりと、会社を大きくするために行動するようになりました。
──創業5年目で調達を実施したのは、どういった経緯やきっかけがありましたか?
深津:起業家仲間と前職のCEOと食事をする機会があり、ファイナンスに詳しい方からエクイティファイナンスについて説明を受けたことがきっかけです。調達とはどういう理屈で、VCはなにを目指しているかなどが具体的に分かってくると興味を持って、自分でも出資を受けるチャンスはあると思ったんです。
VCから出資を受けるためにはエクイティストーリーを考えないといけないのですが、考え始めると上場もできるんじゃないか、とわくわくしてきました。10年かけて10年分成長するよりかは2年で10倍成長する方が面白そうだな、と。そして実際に調達をしてからは経営者として明らかに視点が変わり、ビジネスに対する解像度も上がりました。それに伴い勉強をするなど、調達を通してとても成長したと思えます。
──DEEPCOREとの出会いのきっかけや印象的なエピソードがあったら教えてください。
深津:前職の同僚がKERNELのメンバーだったので、元々名前は知っていましたが、出会いのきっかけはコールドメールへの返信でした。調達に興味を持ってからすぐに20-30社のVCをリストアップしてコンタクトフォームからメールを送りました。すると3-5社ほど返信があり、その中にDEEPCOREの澤﨑さんからのメールがありました。返信をくれた数社の中でも一番コミュニケーションがとりやすく、事業に興味も持ってくれました。他にも興味を持ってくれたVCがいたのですが、DEEPCOREの投資委員会のスピードがはやく、コミュニケーションへの信頼もありDEEPCOREからの調達を決めました。
──とても突破力がありますね。そういった点は事業をやる上でどういった強みとなっていますか?
深津:思いついたら即行動する人間なので、普段から私を見ている人には落ち着きがない人だなと思われています(笑)。調達も思い立ってすぐ行動した結果ですし、6月20日に「PythonとCasADiで学ぶモデル予測制御」という本を出版しましたが、それも「本を書こう!」と思いつきで行動したのが始まりです。こうした多動力を活かす方法で戦っていこうと思い、強みと捉えています。
優秀だが埋もれがちなアカデミア人材を積極採用。理数の強さが開発の鍵
──経営者としてのこだわりや大事にしていることはありますか?
深津:働いている人が会社に来たいと思える環境にするのを心がけています。自分自身、会社員として働いてきた中で、体力があまりなく疲れやすいと分かりました。8時間働くのもしんどく、終電で帰って2-3時間寝て出社というのは到底無理です。社会は体力があるのが前提のシステムになっているなと感じました。弊社では、自分ができないことを制度でカバーするというのが働く環境の前提になっているので、私はもちろん他の社員にとっても働きやすい環境になっていると思います。そうしたことが寄与してか弊社は離職率が低く、創業してから総勢25名の社員が在籍してきましたが、退職したのはこれまで2名だけです。
──採用軸で大事にしていることや心がけていることはありますか?
深津:社会からまだ見つけられていない優秀な変人を集めていきたいです。特に数学が強い人たちの能力は役に立つって伝えたいですし、受け皿になりたいですね。弊社のメンバーは理数などアカデミックな分野で優秀な能力を持っている人たちですが、こうした人材は他の会社と奪い合いになることは少なく、就職先が見つかりづらい人も多いです。理数に強い人材の就職先の候補は金融や研究職が主流で、データサイエンスやITという発想もあまりありません。
特にアカデミアでは、任期付きのポストを3期ごとに積んでしまい、気づいたら職歴なしのままということも起きやすいです。アカデミアに限らず、高いスキルを持っていても一般企業で働くのが苦手な人もいます。それだと彼らの能力が発揮されず、社会的な損失にもなってしまいます。数学が強い人たちに自分たちの能力が役に立つのだと伝えていきたいですし、そういう人たちの受け皿になっていきたいですね。優秀だけど社会から見つけられていない、優秀な変人を集めていきたいなと思っています。その視点で、今後産学連携もしていきたいなと思っています。
制御AIを活用した理想の未来は、人が関わる装置を自動化し事故を減らすこと
──自動運転にも取り組まれていますが、制御AIや自動運転が普及していく未来をどのように想像していますか?
深津:人が関わる装置での事故を減らしていけることが理想です。人間より賢くAIが制御してくれれば、機械による不幸な事故やミスが防げます。人間のミスは個人の技量によるものですが、コンピューターのミスは共有され、一様にアップデートされます。ChatGPTが4になって4oになって……といったことが、制御AIの世界でも起きるのが理想的な未来の一つです。高齢者社会の中、農村で免許返納をしたら高齢者が生活できないといった社会課題もありますが、こういった問題も自動運転が実装されれば解決できます。あと、自分個人のニーズとしても車を運転したくなくて。電車に乗る感覚で車に乗れると良いなと思っています。
──近年AI市場は注目を集めていますが、深津さんは市場をどういった視点でみていますか?
深津:5-10年前に比べてレッドオーシャンにはなってきましたが、AIが社会に普及して当たり前になっていくのは良い傾向だと思います。ブームで終わらずに実社会にどんどん実装されていってほしいですね。
──最後に、今後「Smart MPC」などの制御AIの技術を応用していきたい業界を教えてください。
深津:目標としていたのは自動運転市場でしたが、株式会社ティアフォー様との取り組みが進んでいるので大きな目標には到達できました。次に考えているのが工場設備に使われている温度制御などの制御機器会社のソフトウェアと「Smart MPC」がコラボできないかということです。例えばカセット型にしてはめ込むだけで「Smart MPC」が使える、というように技術の応用を目指しています。製造業だけでなく、人がやっていることをどんどん自動化していきたいです。
──ありがとうございました!
■会社概要
会社名:株式会社Proxima Technology
設立日:2018年11月1日
コーポレートサイト:https://proxima-ai-tech.com/
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