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第5回「ガチ中華」人気4ジャンル~③「ご当地麺」米線、葱油拌麺など

中国南方の麺はライスヌードル(米線、米粉など)が主流となります。

なかでも都内でけっこう食べられる店が増えている「米線(ミーシェン)」の話から始めましょう。

■米線(雲南)

米線(ミーシェン)は、雲南省のご当地ライスヌードルです。

中国南西部に位置する雲南省は、ミャンマーやラオス、ベトナムなどと国境を接し、20以上の少数民族が暮らしています。彼らはもともとタイ人やベトナム人と共通の祖先を持っていて、食文化はむしろ東南アジアに近いといえます。

「食彩雲南 友誼食府店」(池袋)の牛肉米線

米線はビーフン(米粉)のように細くなく、かなり太めで丸い断面の麺で、つるつるもっちりした食感が特徴です。米線は油の吸収率が低く、低カロリーなヘルシー麺で、グルテンフリーの食品です。

雲南名物料理である「過橋米線(グオチャオミーシェン)」は、鶏ガラや豚骨などをじっくり煮込んだ塩味ベースのスープにライスヌードルを入れます。スープはあっさりしているのに深いコクがあります。

冒頭の写真がそれで、手前に並ぶ小皿にのっているのは、薄くスライスした肉や魚、野菜、モヤシ、漢方食材のサナギダケなどの各種キノコ類です。右上の白い麺が米線です。

テーブルにこれら一式が運ばれると、グツグツと煮え立つス―プの中に手早くこれらの具材を入れ、最後に米線を入れます。一度試していただきたい「ガチ中華麺」です。

中国で人気のスープヌードルである米線は、麺の上にのせる具材の種類が豊富で、さまざまな味が楽しめるのも人気の理由です。

最近の東京には次々と中国語圏の新しい食のトレンドが届いていますが、雲南料理の米線は、中国の若い世代が支持するグルメです。背景には中国の若者の雲南ブームがあります。豊かな時代に育った彼らはカフェ文化の影響で雲南コーヒーの産地をめぐったり、少数民族の文化に触れたり、さらには貧しい地域だけにボランティアに参加したりなど、さまざまな動機から雲南を旅したからです。

こうして2000年代に米線は全国化していきます。そのトレンドが日本に届くようになったのが、2010年代半ばくらいからでした。全国化にともない、その地方ごとの食材や好まれる味つけのスープなどのアレンジが進み、さまざまな米線が生まれました。こうした多種多様な米線がいまでは東京でも食べられます。

酸っぱ辛いスープの牛肉入りライスヌードル「酸辣肥牛米粉」(「香辣妹子 友誼食府店」池袋)

ここから先は小麦麺です。

■牛肉麺(中国全土)

中国で最もポピュラーな麺が「牛肉麺(ニゥロウミェン)」と言っていいでしょう。スタンダードなのが、牛バラ肉入りの醤油ラーメンです。

「牛魔王牛肉面」(上野)の醤油スープの紅焼牛肉面

これは小麦粉麺ですが、スープの味が中国各地で違うところが面白いです。四川省の牛肉麺と上海の牛肉麺のスープはまったくの別物というくらい違います。つまり、その土地の味を知るには、牛肉麺は格好のサンプルともいえます。

なかでも広く知られているのが、醤油スープの「紅焼(ホンシャオ)牛肉麺」。醤油ベースのスープで、日本人の口にもよく合います。中国のインスタント麺の最もベーシックな味でもあります。

都内の中華食材店で売っている「ガチ中華」インスタント麺

最近、都内には各地の「ご当地麺」が楽しめる麺専門店も現れているので、ぜひ食べ比べしていただきたいです。

■葱油拌麺(上海)

これは日本の「油そば」によく似ています。どんぶりの底に入ったごま油や醤油ベースのタレに、辣油などの調味料を好みでかけ、麺に絡めて食べるあれです。

上海料理店「新天地」(池袋)の葱油拌麺

葱油拌麺(ネギ油そば)は、上海とその周辺、特に江蘇省の古都・蘇州の朝ご飯や軽食の定番で、いわば蘇州っ子のソウルフードといえます。小麦麺に葱油醤油ダレをからめていただく、いわゆる「混ぜ麺」ですが、油で焦がしたネギの香ばしさに縮れのない細麺が盛られ、見た目は地味ですが、一度食べたら虜になること請け合いの麺なのです。

これが食べられるのは、本来表看板で「上海料理」をうたっている店のはずなのですが、実はそうでもない(理由はあとでお話します)ところもあり、実は都内で出会えるのはけっこう難しいローカルヌードルでもあります。それだけに出会えたときの喜びはひとしおです。

■大腸麺線(台湾)

おなじみ台湾名物のモツ煮込み入り細麺「大腸麵線(ターツァンミエンシエン)」。酸味のあるとろりとしたスープが特徴です。

池袋の友誼食府の中にある台湾料理「匯豐齋」の大腸麺線

伸びにくく、コシのある麺をスープで煮たあと、片栗粉でとろみをつけます。それに湯通ししたカキと醤油で煮込んだ豚のホルモンをのせ、最後に黒酢や特製調味料、パクチーをちらしていただきます。

都内の台湾料理店では、大陸由来の牛肉麺もおいしく食べられますが、ご当地麺というなら、これを試してほしいと思います。

■エビワンタン麺(広東、香港)

最近、都内に点心やお粥、土鍋ごはんの煲仔飯(ボージャイファン)、焼味(ロースト)などの香港グルメを気軽に味わえる店が増えています。
 
なかでもエビワンタン麺はぼくの好物で、店を見つけ次第、馬鹿のひとつ覚えみたいに食べていた時期があります。ただし、店によっては(実は香港でもそう!)潮州風の白湯スープだったりして、顔には出しませんが、ちょっぴり残念な気分になることも。決して不満なわけでも、まずいわけでもないのですが、やっぱり香港風の醤油スープがいちばん。

「粤港美食」(神保町)のエビワンタン麺

さらにいえば、現地っぽいごわごわの香港麺を出す店が好みです。そして、エビワンタンのプリプリ具合も重要。もともと食に関してそれほど口うるさくないぼくですが、ことエビワンタン麺に関しては、いろいろ評定を下したくなる。それほど好きなのです。
 
かつて香港返還(1997年)の頃、日本ではちょっとした香港ブームが盛り上がり、香港飲茶や点心を楽しめる店が増えた時期がありましたが、当時はわりあい高級店のイメージでした。ところが、最近の香港グルメの再来(とまでいえるほどではないかもしれませんが)で、「ガチ中華」オーナーらによる現地風の店が増えていることは確か。ひそかに喜びを隠せません。なぜなら、日本にいながら香港風のエビワンタン麺が気軽に食べられる日が来るなんて、以前は考えられないことでしたから。

「ガチ中華」には、今回触れていない、もっといろんな驚きのローカル麺があるのですが、今日はここまでとさせてください。


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