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第21回 東京で食べられるモンゴル国の料理~「ガチ中華」の地方料理⑪
モンゴル料理と一般に称される草原のグルメには、中国内モンゴルとメインランドのモンゴル国では少し違いがあることはすでにお話ししました。
そして前回は、東京にある中国内モンゴル料理の店を紹介しました。そこで見られたのは、店の担い手がモンゴル民族の人たちだけでなく、同エリア出身の回族や華人の人たちの店もあり、それによって店の雰囲気や供される料理も少し違うことでした。
では、東京にあるモンゴル国の料理はどのようなものなのでしょうか。中国内モンゴルの料理と違いがあるのか。実際に店を何軒か訪ねてみたので、紹介します。
「モンゴルのぞき見」というウエブを運営し、最新のモンゴル事情を紹介している大西夏奈子さんに案内されたのが、両国にあるモンゴル料理店「ウランバートル」です。
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ここはウランバートル出身の元白馬関のお店で、都内の内モンゴル系オーナーの羊肉料理店と見た目は似たメニューが多かったですが、味つけが少し違いました。
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あくまで比較の話ですが、内モンゴルの店は中国の食文化の影響を受けているので、ひとことでいうと、味にメリハリがある。トウガラシやクミンなどの香辛料を多用しているからです。一方、もともとモンゴル料理は塩以外はあまり使わないのが基本で、味を中国人ほど作りこもうとしません。むしろ天然の羊肉の味わいを楽しみます。
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店内はこざっぱりした落ち着いた雰囲気で、特に民族色を強く打ち出してはいないのですが、オーナーご自身の現役時代の大きな写真が飾られていました。
ぼくの友人に、都内在住のウランバートル出身の若い女性がいます。彼女は渋谷にあるIT企業でエンジニアをしている人なのですが、ときどきSNSでモンゴル情報を教えてもらっています。
彼女のイチ推しレストランが田端の「IKH MONGOL」です。
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この店でも、モンゴル人男性が大好きな現地風焼うどんのツォイバンと羊のスープを注文しました。
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実はツォイバンも、都内の内モンゴル料理、特に華人経営の店ではあまり見かけません。スープの味つけも少し違います。そもそもモンゴル人の店では羊肉串はメニューにありません。
このようにモンゴルのメインランドと中国内モンゴルでは、メニューの中身や提供の仕方が違うのは、東京でも現地と同様でした。
またモンゴル人の店は、たいてい現代風の内装ですが、必ずチンギスハーンの肖像と日本の角界で活躍しているモンゴル人力士の写真が飾られていました。内モンゴル系の店ではチンギスハーンはあっても、力士の写真は見られません。モンゴル人の店には、モンゴル人力士に連れられて、日本の関取のみなさんもよく来店するそうです。
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3軒目は、先ほどのモンゴル人女性に案内してもらった赤羽にある「アラル」という店です。
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ウランバートル出身のスンジドマ(Сүнжидмаа)さんという女性が切り盛りしていて、実をいうと、友人のおばさんの店でした。 この店では、ちょっと珍しいモンゴル料理をいただきました。
たとえば、羊の胃袋で肉を包んだボーズがそうで、初めて食べました。なかなかキョーレツな味で、モンゴルウォッカがほしくなりました。
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この店の羊のスープは、モンゴル人が風邪をひいたときつくるそうです。
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またレイジー(手抜き)ボーズと呼ばれる、羊のひき肉を1枚の小麦皮に包んで蒸したものをカットする(つまり、一個ずつ包まないという意味で手抜き)料理など、モンゴルの家庭料理を教えてもらいました。
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それにしても、内モンゴル料理とはメニューの中身がずいぶん違います。しかもロシアの影響で、ポテトサラダが食べられます。
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いろんな発見がある店でした。ビル地下の小さな飲食店が並ぶ場所にあり、ちょっとわかりにくいのですが、中国内モンゴル料理の世界とは異なる雰囲気が味わえることでしょう。
同じ民族でありながら、そういう違いがなぜ生まれるのか。それぞれの土地を訪ねてみると、よくわかります。たとえば、これまで見てきたように、モンゴル国の店では料理名はキリル文字で表記されています。一方、内モンゴル系では料理名は漢字です。
それは近代以降、それぞれがどの国の影響下にあったかによるのです。ひとことでいえば、モンゴルの人たちはロシア化したユーラシアの民として、内モンゴルの人たちは中国化した東アジアの民として、この100年を生きてきたということなのだと思います。
東京で食べられるモンゴル国の料理は、いわばウランバートル系の料理だといえるでしょう。