第12回 中国のコリア系、延辺朝鮮料理~「ガチ中華」の地方料理③
みなさん、延辺朝鮮料理をご存知でしょうか。
中国吉林省東部に朝鮮系住民(中国では朝鮮族と呼ばれています)が住んでいる延辺朝鮮族自治州(以下、延辺)があります。つまり、東京に来た中国の延辺朝鮮族の人たちが供する料理をいいます。
延辺はおいしい米を産する土地として知られ、中朝国境にまたがる美しいカルデラ湖で知られる長白山(ちなみに北朝鮮では白頭山と呼んでいます。 撮影/佐藤憲一)のふもとで採れる朝鮮人参や豊富なキノコ類などの山の幸とともに、お隣の国北朝鮮から日本海でとれる海産物が届くので、豊かな食材に恵まれています。
吉林省延吉の朝市を訪ねると、キムチやナムル、トウガラシ、テンジャン(朝鮮味噌)、朝鮮五味子、朝鮮人参、キクラゲなどが揃っています。都内の延辺料理店でもこれらの食材を使った料理が味わえます。
この地方の料理は、図們江を隔てて延辺の南に隣接する北朝鮮の咸鏡北道の味覚をベースにしていますが、中国料理の影響も受けた独特の中朝ミックス料理といえます。
さらに、近年は韓国の影響も受け、味や提供のスタイルも含め、多様化しています。韓国でも地方によって味が変わるように、延辺朝鮮料理≒韓国料理で、延辺独自の食材やメニューがあります。
以下、都内で食べられる延辺朝鮮料理(以下、延辺料理)を紹介しましょう。
■延辺羊肉串
延辺料理の店の看板メニューが羊肉串です。さまざまな部位を使い、クミンなど、複数のスパイスを混ぜ合わせた調味料で、味にうまみがあり、延辺羊肉串(イェンビェンヤンロウツァン)と呼ばれています。
羊肉串は、1980年代に新疆ウィグル出身の若者が中国各地で広めたといわれ、それを受容した土着現地化系のグルメといえます。
延辺料理店に行ったら、まず羊肉串を何本かまとめて注文しましょう。厨房で炭火焼きして出してくれる店もありますが、各テーブルに設置された自動串焼き機で焼きたてを食べられる店も多いです。
■キムチ
羊肉が香ばしく焼けるのを待ちながら、延辺料理のつまみを頼みましょう。まずはキムチの盛り合わせから。延辺の住民は北朝鮮咸鏡北道の出身者が多く、キムチの味も韓国よりさっぱりして甘くないです。
■タラの燻製
延辺ではトウガラシで真っ赤に染めたタラの燻製を食べます。
タラは日本海でとれますが、中国吉林省は海に面していないので、現地では北朝鮮産を食べています。干しタラは延辺の市場でよく見かけます。そのままビールのつまみとして食べることも多いです。
■猪肉米腸(スンデ)
朝鮮風豚の腸詰のスンデで、中国語では猪肉米腸(ジューロウミィチャン)といいます。
豚の血や糯米、香味野菜などを入れた豚の腸詰で、蒸したあと切って食べるつまみ系料理です。吉林省の市場に行くと、黒いチューブのようなかたちで売られていて、ちょっと驚きます。
朝鮮北部のご当地グルメで、韓国のスンデとは具材や味が少し違います。ほんのり甘く、醤油ダレをつけないで、そのまま食べてもおいしいです。
■土豆煎餅
朝鮮風ジャガイモチヂミで、中国語では土豆煎餅(トゥドウジエンビン)といいます。
小ぶりの平たいお餅のようなひと口サイズで、モチモチとシャキシャキ感がたまりません。表面が少し焦げてるくらいが香ばしくておいしいです。ヨモギの葉を練り込むなどのひと工夫で食感と香りが変わります。醤油やお酢、胡椒などのタレをつけて食べます。
■海鮮チヂミ
韓国料理や焼肉屋でおなじみの海鮮チヂミです。必ず注文したくなる一品ですよね。
■黒餃子(土豆餃子)
ジャガイモの皮でつくった餃子のことです。そのため、小麦粉と違い、薄黒いです。
モチモチ、プリプリとした厚みのある皮で、これは延辺の特色といえます。
■延辺冷麺
延辺名物の冷麺です。酸味のあるさっぱりスープと日本の韓国料理の冷麺ほどコシが強くはないですが、食べごたえのある麺です。
延辺の住民は北朝鮮咸鏡北道の出身者が多いことを先ほど述べましたが、冷麺の味もそうで、韓国や北朝鮮の平壌のものとも違います。
■トウモロコシ麺(玉米温麺)
この地方ではトウモロコシ麺(玉米温麺)もよく食べます。
羊肉串を食べたあとのシメはトウモロコシ麺でキマリ、というのが延辺風なのです。小麦麺に比べ弾力こそありませんが、独特のコシとつるんとした舌触りのある麺は、しっかりおなかにたまる感じです。
■汁なしトウモロコシ麺
現地の友人の話では、串焼きのシメに、汁なしトウモロコシ麺を食べるのが流行っているそうです。
トウガラシたっぷりのピリ辛でおいしいです。その日の気分で選べばいいと思います。
ぼくが延辺を初めて訪ねたのは1990年のことで、長白山に登りました。当時の延辺は北朝鮮の町のようにゴミがなく、きれいに清掃されていたことを思い出します。偶然日本統治時代を知る老人と知り合ったことから、延辺大学で日本語を教える日本人教師を紹介いただき、大学の教室で学生さんに日本の話をしました。授業のあと、女子学生たちが民族舞踊で歓待してくれた思い出があります。
いちばん最近では、2018年の夏に延辺を訪ねましたが、市場などに行くと、朝鮮の食文化が感じられて面白いところです。
次回は東京で延辺料理が食べられる店の話をします。