顎変形症治療体験記#2~顎変形症とは~
そもそも顎変形症とは何か、どう治療するのかということを知らない人向けにまとめてみました。自分用のメモとしても使っていますので、雑多な内容になっています。(体験記とは直接関係なくてすみません。)
今後も更新していくかもしれません。
顎変形症とは
詳しくは↑のリンク先がわかりやすいので見てみてください。
ざっくりいうと、「しゃくれ」や「口ゴボ」といった特徴の顔つきの方、顎が傾いている方、嚙んだときに前歯が閉じない方などで、通常の矯正治療のみでは治療が難しい方が外科手術が必要な顎変形症と診断されます。治療には健康保険を適用することができます。(後述しますが、自費診療で外科手術を行う場合もあります。)
軽度の顎変形症の場合は矯正治療のみ(自費診療)で対応します。
<まとめ>
▷顎変形症とは、骨格的な歪みにより、嚙み合わせの不調和や顔の形に変形が生じる病気
▷顎変形症の治療には保険診療(矯正治療+手術)と自費診療(矯正治療のみor矯正治療+手術)がある
顎変形症の治療の流れ
顎変形症の治療は大きく「術前矯正」「骨切り手術」「術後矯正」「保定」の4段階に分けられます。以下のリンク先がわかりやすいです。
① 術前矯正
一般的な歯列矯正をイメージいただければ大丈夫です。
矯正用のワイヤーをだいたい1年~2年ぐらい装着し、歯並びを整えていきます。人によっては、抜歯したり、ゴム掛けをしたり、アンカースクリューを打ったり、歯列を拡大する装置をつけたりします。
注意点ですが、術前矯正では骨切り手術後に嚙み合う歯並びを目指します。そのため、術前矯正が進むにしたがって、以前よりも嚙み合わせは悪くなり、骨格的な特徴はより顕著になる(よりしゃくれになる)ことがあります。
健康保険の適用を受ける場合は術前矯正が必要(最低でも6か月は必要みたいです。)ですが、自費診療の場合はここを飛ばして手術にすすむことができます。(サージェリー・ファースト法)
② 骨切り手術
術前矯正が完了したら、いよいよ骨切り手術です。
ほとんどの矯正歯科では骨切り手術は行っていないので、通院する矯正歯科とは別の病院で手術を行います。
手術は「下顎の骨だけ切る」、「上顎と下顎の両方の骨を切る(両顎手術)」のざっくり2種類です。下顎に対してはSSRO、上顎に対してはルフォーⅠ型骨切り術がメジャーです。
どの術式を選択するかは症状、骨格、治療方針によります。
下顎前突の場合、下顎単独手術(SSRO)を行うことがありますが、下顎前突は下顎が出ているだけでなく、上顎が引っ込んでいることも多いそうで、その場合は両顎手術(ルフォーⅠ型+SSRO)のほうが審美面の満足度は高くなるようです。↓は美容外科の先生のYoutubeですが、参考にどうぞ。
それじゃあ両顎手術のほうが絶対いいじゃん!となるかもしれませんが、ルフォーⅠ型の手術を受けると、多少なりとも鼻の変形があるようです。
また、患者の意向で術式の選択ができるかはわかりません。
手術の際は1週間~2週間ほど入院するため、仕事や学校、家庭とうまく調整する必要があります。退院後もすぐに完全に社会復帰できるわけではなく、柔らかいものしか食べられない、口を開けられない、顔が腫れるなどがしばらく続くようです。
手術のリスクとしては、顔面の麻痺(感覚がない)が最も多いようです。
手術から1年ぐらいたった後にプレート除去手術のためにもう一度入院が必要になります。この時、オトガイ形成術を同時に行うことが多いです。
現時点で私自身が手術未経験なので、よくわかっていないところがあります。
③ 術後矯正
手術後、1年ぐらいは嚙み合わせの細かな調整が必要になります。術前矯正と比較して期間は短くなる傾向にあるようです。
また、術後矯正の段階にあっては顔の見た目は整っており、嚙み合わせもほぼ改善されているので、術前矯正ほどの辛さはないでしょう。
④ 保定
術後矯正が完了したら、ようやく矯正用のワイヤーとブラケットが外れます(いわゆるブラケットオフ)。しかし、まだ終わりではありません。
ブラケットオフ後は、リテーナーと呼ばれるマウスピースのような器具を装着します。これは整えた歯列が元に戻ろうとするのを防ぐために着けるもので、普通の歯列矯正の場合にも使用されます。
自分で取り外しできるので、食事や歯磨きの際に困ることはありません。
保定期間は2年以上に渡るようです。はじめは24時間装着ですが、徐々に装着する時間を減らしていくことができます。
<まとめ>
▷顎変形症の治療は以下のステップで行われる
「術前矯正」・・・・1年~2年
「骨切り手術」・・・1週間~2週間
「術後矯正」・・・・1年
「保定」・・・・・・2年以上
※治療期間は個人差がかなり大きい
▷自費診療で行う場合は、術前矯正を飛ばすことができる
▷骨切り手術には下顎単独手術と両顎手術の2種類がある
顎変形症の診断基準
保険が適用される顎変形症の診断は専門の医療機関で行います。
調べ方は以下のリンク先へ
自分が適用かどうか気になる人も多いと思います。これについては絶対的な基準があるわけではないようで、あるところでは診断が下りなかったが、別のところでは保険適用と診断されることがあります。
保険で手術を受けたい方は、診断が下りなかったとしても諦めず別の歯科医院でカウンセリングを受けるのも手でしょう。
インターネット上の症例やSNSを見て感じた個人的な感想でしかないのですが、ぱっと見でしゃくれといわれるような状態の方は基本的に保険適用と診断されている気がします。
<まとめ>
▷保険適用の顎変形症の診断は、専門の医療機関で行う
▷歯科医により診断が分かれることがある
両顎手術か下顎単独手術か
おそらく、顎変形症患者の治療の目的のほとんどを占めるのが「審美面の改善」でしょう。その際に、下顎単独手術になると診断されると本当に顔の変形は治るのか不安な気持ちになります。
下顎前突の場合ですが、上顎の位置や大きさ等に問題がなく、手術で下顎を後退させる量も大きくなければ下顎単独手術となることがあるようです。
なお、近年の傾向として、下顎単独手術よりも両顎手術を選択することが多いようです。以下の資料によれば、2021年に音羽病院で行われた両顎手術は84件、下顎単独手術は7件です。(症例には下顎前突以外も含まれます。)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjjd/33/3/33_248/_pdf/-char/ja
両顎手術が増えた原因としては「超音波骨切削機器など医療機器の開発によって,上顎に対する手術が安全かつ安定して行われるようになった」「上下顎骨形成術の術後安定性,適応症の広さ,下顎後方移動量が大きい場合の気道狭窄の問題,審美面の改善での自由度の大きさ等」があるようです。
このように一見すると両顎手術に優位性があるように思われますが、下顎単独手術と比較して骨切り部位が増えるのはリスク要因でしょうし、費用はかさみます。
特に、審美面での満足度は個人の感じ方で大きく左右されるところですし、執刀医の技術や考え方も重要ですので、両顎手術のほうが優れていると簡単に結論できるものではないと思います。
どうしても両顎手術にしてほしいということであれば、必ず担当の歯科医師にその旨を伝え、難しいようであれば、両顎手術を行ってくれる病院に変更するか、自費診療を検討してみるのがいいと思います。
<まとめ>
▷下顎単独手術のメリット
・費用が安い
・鼻の変形がない、または少ない
▷両顎手術のメリット
・顔貌の改善の満足度が高い
(執刀医の技術や本人の感じ方等により個人差が大きいと思います)
・移動量が大きくなる下顎前突など様々な症例に対応
▷両顎手術は近年増加傾向にある
(参考文献)
大澤 政裕, 森 宏樹, 宮本 絵里加, 尾崎 尚, 高嶌 森彦, 今井 裕一郎, 横江 義彦, 桐田 忠昭, 洛和会音羽病院京都口腔健康センターにおける14年間の顎矯正手術症例の検討, 日本顎変形症学会雑誌, 2023, 33 巻, 3 号, p. 248-257