吉本NSCという場所
吉本総合芸能学院、通称「吉本NSC」に通っていた日々は、人生の中で特別な経験でした。私はNSCで、お笑い芸人としての基礎を学び、厳しい訓練の中で芸人としてのスキルを磨きながら、多くの仲間と切磋琢磨しました。NSCに入学するまでの自分と、卒業してからの自分は全く別人のように感じられるほど、この時期に多くのことを学びました。
NSCに入るまでの自分
NSCに入学したのは、何よりも「笑い」に対する強い情熱があったからです。子どもの頃からテレビのお笑い番組を見るのが大好きで、ダウンタウンや明石家さんまさんといった憧れの芸人たちが目の前で繰り広げる掛け合いに夢中でした。高校生の頃には、「自分もいつか人を笑わせる仕事がしたい」と漠然と思うようになりましたが、現実は厳しいものだと理解していました。
大学に進学し、周囲は「普通に就職しろ」というプレッシャーをかけてきました。けれどもその一方で、「自分の人生に悔いを残したくない」という気持ちが徐々に膨らんでいきました。ある日、思い切ってNSCへの進学を決意しました。親に話すと驚かれましたが、最後には「やりたいことをやりなさい」と背中を押してもらいました。
NSCでの生活と厳しさ
NSCに入学すると、まずその厳しさに驚かされました。授業は平日にもかかわらず朝から夕方までびっしりと詰まっており、毎日笑いのネタを考え、披露し、先生や同期から厳しいフィードバックをもらう日々が続きました。授業の内容も多岐にわたり、基礎的なコントや漫才の構成、タイミングの取り方、表情や声の出し方まで、細かいテクニックが学べる一方で、日々の生活は緊張の連続でした。
特に、毎週行われる「ネタ見せ」では、講師の方々が真剣に評価をしてくださり、自分の漫才やコントが通用しないと冷徹に指摘されました。時には厳しい言葉も浴びせられましたが、逆にその厳しさが「自分の笑いに対する姿勢を鍛えてくれる」と思うようになり、少しずつ前向きに取り組むことができるようになりました。時には自己嫌悪に陥ることもありましたが、それでもやりがいを感じていました。
仲間との交流と支え
NSCでの仲間たちとの出会いは、今でも私にとって大切な宝物です。クラスメイトの多くが同じように「笑いにかける情熱」を持っており、みんなが切磋琢磨しながらも支え合う姿が印象的でした。深夜まで一緒にネタを練り、次の日のネタ見せに備えたことは数えきれません。
中には、年齢や経歴が全く異なる人もおり、彼らのバックグラウンドを知ることで新しい価値観や笑いの発想が広がりました。ある同期の仲間は元サラリーマンで、会社での経験をネタにしていたり、別の仲間は海外で育った経験を活かして独自の視点でネタを作っていました。こうした多様な経験や考え方が刺激となり、自分の発想も少しずつ柔軟になっていきました。
成長と挫折
NSCでの生活は成長の連続でしたが、同時に挫折の連続でもありました。最初はアイデアが尽きないように思えても、ネタ見せで何度も不合格をもらうたびに自信を失い、「自分には才能がないのかもしれない」と思い詰める日もありました。しかし、その度に仲間たちが励ましてくれたり、講師の方々がアドバイスをくれたりすることで、なんとか乗り越えることができました。
特に印象に残っているのは、ある日のネタ見せで、講師から「そのネタは面白くない、観客の目線を考えて作れ」という厳しい言葉を受けたときです。自分なりに一生懸命作ったネタが全く通用しないと分かった瞬間、何とも言えない挫折感がありました。しかし、その日から「自分が面白いと思うだけではなく、観客に楽しんでもらうことが重要だ」と深く理解するようになり、ネタの作り方が大きく変わりました。
NSCで得たものと今後の目標
NSCを卒業する頃には、初めて入学したときと比べて自分がどれだけ成長したかを実感できました。技術的なスキルはもちろんですが、一番の収穫は「観客の笑顔を生み出すにはどうすればいいか」という視点が根付いたことです。この経験を通じて、笑いが人に与える影響の大きさを改めて感じ、さらに芸人として成長したいという思いが強くなりました。
卒業後もまだまだ挑戦は続きますが、NSCでの学びと仲間たちとの思い出は、私にとって一生の財産です。今後も芸人として、観客に笑顔と幸せを届けられるよう、努力し続けたいと思っています。