主人公
バイト中、同じシフトに入っていた友人の話を聞いた。夜、駅を歩いていたら飲み帰りと思われる1組のカップルがいたらしい。何かの不手際で、女性が男性の服を汚してしまった。男性は酔っ払っていたせいもあり、自分の服を汚されたことに腹を立てて、そこそこの強さで女性の顔を叩いた。女性は痛がっていたが、男性に怯えて抵抗できていないようだった。
友人はその場に居合わせながらも、何も行動できなかった自分に無力さを感じ、「自分はアニメや漫画に出てくるような、主人公じゃない」と思ったらしい。その感覚、わかると思った。
私にも同じような経験があったことを思い出した。大学1回生の夏。23時ごろ1人でスーパーで買い物をしている途中、1人の女性が若者の男性4人組に絡まれていた。当時、私は大学の少林寺拳法部に所属していたが、大学に入学してから始めた初心者であった。気の強い方では無い私は女性を助ける勇気も出ず、「自分がもっと少林寺拳法が強かったら...」と思うだけで何もできずにいた。4人組の中の1人が「もうやめとけや」と言い、女性は助かっていたが、私はもっと少林寺拳法を極めて強くなろうと意気込んだ。その3ヶ月後、部活の練習で同回生の女子に腹を蹴られて痛過ぎてめちゃくちゃ辞めた。
自分は主人公じゃない、と感じることは、映画や漫画を見た直後によくある。作品の華やかな主人公と平凡な自分に大きなギャップを感じるからだ。
私は映画では、ミッションインポッシブルが好きだ。トム・クルーズ演じる、主人公のスパイ、イーサン・ハントはどんなに困難なミッションでも間一髪でやり遂げる。作品を見た後は、そんな彼のかっこよさに憧れる。ある日、家でミッションインポッシブルを観て感動した。「イーサンかっけえ!」と思った後、バイトに行く時間になったので、私はバイト先に向かってチャリを漕いでいた。信号待ちをしている途中、ふと思った。...俺、主人公ちゃうなぁ。イーサン・ハント、バイトせんもんな...。バイト先についた後、チャリの漕ぎ方やスタンドの蹴り方を、イーサンを意識して俊敏に動いていた10分前の自分を思い出して帰りたくなった。
漫画では、スラムダンクで自分が主人公じゃないことを感じた。山王戦、宮城リョータは苦戦を強いられ、自信を無くしかける。その時、マネージャーの彩子が宮城の手のひらに「No.1ガード」と書いて宮城を鼓舞する。宮城はいつもの調子を取り戻し、最強山王に立ち向かう。
私は影響された作品の真似をしたがる癖がある。スラムダンクのそのシーンに影響された私は、自分もやってみたいと思った。少林寺拳法部を辞めた後、2回生になった私は高校まで続けていた剣道をまた始めようと、剣道部に入部し直していた。時は流れ4回生になり、私は引退試合を迎えていた。7人制の団体戦。ポジションは前から3番目の「五将」。彩子のようなマネージャーは部にいなかったので、自分で自分の手のひらに「No.1五将」と書いた。...もうこの時点で主人公ではない。まあこれを見て勇気が出れば主人公っぽいかと自分に言い聞かせた。リーグ戦最後の試合前、本当にこれで学生剣道が終わると感慨にひたっていた。そこで、自分の手のひらに書いていた「No.1五将」の文字のことを思い出した。これを見て勝とう、と思いコテという腕につける防具を外してみると、書いたはずの文字が消えていた。油性マジックで書いた文字は、前の試合中に汗で消えていたらしい。...主人公ちゃうなぁ!!苦笑しながら試合に出て、結果は引き分け。主人公ちゃうなぁ!!!!主人公は勝つか負けるかどっちかや。引き分けて。
そんな私のmbtiは「主人公」。どこがやねん。