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Netflixドラマ「阿修羅のごとく」を観た。

Netflixで2025年1月9日から配信を開始したドラマ「阿修羅のごとく」を全部観た。向田邦子脚本のNHKドラマ(1979年、1980年)を是枝裕和が脚色・監督・編集したものだが、めっぽう面白い。

何が面白いか。まずは四人姉妹にその母に、その父の愛人にと、女性キャラクターがふんだんに登場、是枝監督が「誰もが旬の女優で撮りたくなる」といっているように、女優揃い踏みの芝居が楽しめることだ。

今回の四人姉妹は、上から宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず。お母さんが松坂慶子で、父の愛人は戸田菜穂、次女の夫の愛人容疑者は瀧内公美という顔ぶれは、今考えられるこの脚本のベストの配役だろう。

皆が演じるのは当然舞台となっている昭和の女性で、そりゃ今とは異なると思って観ているのだが、だんだん違和感がなくなってくるというか、昭和だろうが令和だろうが、人というのは大して変わらないというか。

しかしまあ、四姉妹の芝居のナチュラルなこと。そして、子供のオレが観ていたのだから昔のNHKドラマはそうではなかったのだろうけど、今回の四姉妹のエロいこと。特に長女の未亡人の宮沢りえとその愛人の料亭の主人・内野聖陽のシーンなんか、息ぴったりでエロさ満開!あと四女の広瀬すずも、こんなにも大人になったかと思わせる色気を放出する。

ドラマ全体は基本、次女の専業主婦(!)の尾野真千子の視線で描かれるのだけど、この家族や姉妹や親を気遣いながらも、夫の浮気を疑う女の業の表現が抜群。堅物の三女・蒼井優が、次第に閉じこもっていた殻を緩ませてゆくのも自然。とにかく各登場人物が(男性も含め)、ものすごくキャラ立ちしているのだ。

お父さんの國村隼の視線もやりようも相変わらず魅力的だし、次女の夫・本木雅弘とか、三女の夫・松田龍平とか、男性陣俳優もたまらなくいい味を出している。

面白ポイントのその2は、こだわりの昭和感だ。次女の家とか家具とか、使っている花がらのコップとか。布団の下で「寝押し」したり、新聞紙の上で爪を切ったり、とんがりコーンを指にはめて食べたり、とにかく昭和のTipsが満載。オレら世代は、「ああ、あれやった!」「あれ、あったね」と、随所で大喜びできるだろう。

そして食べ物と音楽へのこだわり。このドラマは今はすっかり影を潜めたホームドラマなわけで、食べ物を食べるシーンが山程出てくるのだけど、なんか美味しそう…と思ったら、フードスタイリストはかの飯島奈美。ただ不思議なのは、東京の話なのに、すき焼きが関西風で割り下を使わない作り方。そういえば、おむすびを俵型…という話も出てきていて、これは國村隼か松坂慶子が関西出身という設定なのかもしれない。

音楽は最近の劇伴といえばこのバンド!の、fox capture plan。ただいつもはピアノを中心とした曲が多い彼らが、今回は管楽器を多用したものを豊富に投入していて、これがドラマにすごく合っている。何とはいわないが、最近音楽でもったいないことをしている劇場公開映画を観たばかりなので、このマッチングの見事さは身にしみる。

是枝作品を観ていていつも思うのだが、編集まで監督がやっていることも影響しているのだろうが、カットの長さがいつも絶妙。昭和だったら、もっと長かったろうな…というシーンも、さっと切って次に向かうので、変にドラマが湿っぽくなっていない。

そういえば、今30代の知り合いが、このドラマが息苦しくて、続けて観ることができないと言ってて、ちょっと驚いたと同時に、そうかなと思った。今の感覚で観ると、そうかもしれない。

しかし、昭和の価値観も体験しちゃってるオレたちからすると、この「阿修羅のごとく」の四姉妹の右往左往は重苦しい悲劇ではなく、人生ってそんなもんよねっていう喜劇に他ならないのだ。実際、オレは随所で大笑いした。

ひょっとしたら、今の時代に足りないのは、そういう感覚かもしれない。さすが是枝監督(と企画者)、その辺がしっかりわかっていて、この作品を作ったのだろう。

とにかく、全ての要素で傑作。是枝監督の近年の作品の中でも傑出していると思う。これのために、Netflixに加入しても、全然損はしないと断言できるくらいオススメだ。
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