長編恋愛小説【東京days】8
この作品は過去に書き上げた長編恋愛小説です。
そして板をはめ込んでいく。
奈美はドリルで釘を刺して、ベニヤ板を床面に固定させている。
暑がりの僕は大量に身体中から放出される汗をぬぐう。
奈美が気を遣って扇風機のスイッチを押してくれた。
奈美は本当に優しいんだなとそう思った瞬間、奈美は突然、扇風機のスイッチを切った。
僕には奈美の行動の意味が理解出来ずにそれとなく聞いてみた。
『富川さん、どうしたの?』
『苗字じゃなくて奈美って呼んで構わないわよ』
『本当に?』
『本当よ』
『いきなりすぎないかな?』
『すぎないと思うよ』
奈美の意図が分からない行動の理由を聞くことすら忘れて、まだ知り合って間もないにも関わらず、名前で呼んでいいと言ったことに対して驚愕の気持ちを隠しきれなかった。
そして同時に浮かれ気分の絶頂のなかに居た。
『クーラーの方のがいいかな?』
そう言って今度はエアコンのスイッチを入れた。
『窓は閉めた方のがいい』
『ベニヤ板を切るとき、ベランダを使うから今はこれでいいのよ』
心の中で確かにそれもそうだなと頷く僕は、生暖かい外気とエアコンの冷気とが入り乱れた特殊な空間の中に身を委ねていた。
『富・・・奈美』
『あの、拓也さん。奈美って呼んで構わないって言ったけど、いきなり呼び捨てなの?』
『あっ、ごめんごめん』
しばらくの間、そして奈美が口を開く。
『でもいい響きだった。悪くないわ』
僕はどっちなんだと首を傾げた挙げ句、名前を連呼してみせた。
『奈美』
『奈美』
『はい』
『奈美』