夢を叶えた五人のサムライ成功小説【フライパンズ編】8
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
柴田は一枚の企画書を取り出して茂太に手渡した。
眼を通すと思わず仰天するほどの衝撃を受けた。
企画書の内容は以下だった。
お笑いライブ【レッツ!美銀2】
前回のライブで高視聴率をマークした為、本年度に限り第2弾を開催します。
出場者六組名簿
1.コンコンどなた様
2.フライパン(熊谷弘樹)
3.人間交差点
4.お宝発掘
5.にょいぼう
6.6W1H
開催日は追って出場者に知らせることにします。
茂太はかつてのパートナーである弘樹の名に釘付けになった。
加えてフライパンズではなく、フライパンと改名されていたことに対して、ピン芸人・弘樹への愛着心で胸が爆発した。
『これはどういうことですか?』
という茂太の問い掛けに対して、デザートを無茶食いしていた柴田がそっと話し始めた。
『君は今のままでも成功は叶うよ』
柴田の矛盾した考え方に、つい先ほど口に出した質問を繰り返してみた。
『それはどういうことですか?』
『とりあえず君はまゆの補佐役として、しばらくは私を信じて何も言わずに頑張ってもらいたい』
柴田はしばらくの沈黙のあと、しぶしぶ首を縦に振った。
『は、はい』
このあと、三人はつまらぬ話しをして過ごし、リッツカールトンを出てそれぞれの家路へと向かった。
まゆは茂太に自身の携帯番号を伝えて、アイドル顔負けの笑顔を振りまいてその場から遠ざかった。
ちょうど茂太が住まいに到着した頃だろうか、柴田からの紹介だと第一声を発した連絡が入る。
聞けばお笑い芸人の登竜門で知られるヘルプミーコーポレーションの社長らしく松木雄介と名乗る、声からして50代くらいだろうか、少し話し方に訛りのある男性だった。
半時間ほど話しを聞かされたが、今回の企画の実現を私も協力しようという有り難い内容のものだった。
松木はライブの日取りを決めるから、その日までに茂太にも何か観客の面前で披露できる新ネタを考えておいてほしいと提案された。
どうやらピン芸人として舞台に立ってほしいらしい。
マネージャーやディレクター各位から敬遠されがちだった茂太は、こんな大御所から直接の依頼を受けたことで緊張感よりも嬉しさのが大きく勝る思いだった。
何よりも起死回生の逆転劇を演じて、一躍有名になってスポットライトを浴び、もう一度、お笑いの頂点を取ってみせると息巻いて見せた。
松木といえば、この業界で逆らったなら最後、もはや二度とトップスターにはなれないと囁かれ、逆に可愛がられれば長期に渡って重宝されるという逸話が存在していた。
そしてそれは真実だった。
そうして茂太とまゆはその後も共に力を合わせて、会社のために大きく貢献していくことを心のなかで強く誓った。
茂太は何故、柴田という男が自分自身のためにこれほど親身になってくれるのか、いとも容易く業界の大物を紹介してくれたり、仕事を提供してくれるのか、まったくもって理解していなかった。
翌日、茂太は松木と会い、つい最近まで関わっていた業界のトップの方と、今はこうしてひとつのテーブルを囲んでお茶をしているのか、とても凄いことだし、改めて何がどうなってしまったのか、やはりいくら考えても理解は出来なかった。
理解出来ていることは、少なくとも、いや、絶対的にこの度のお茶が世の中一般に開かれているお茶会などとは、完全に別次元のありえない高尚なものであるという認識だけだった。
そう考えると柴田は超一流の人物ではないだろうか!と思えてならない。
彼に対する謎は深まるばかりでもあった。