夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】1

この作品は過去作品であり、長編ギャグ自己啓発小説です。


『起きなさい、ボケ』
突然、静まり返った室内に冷酷な声が響き渡る。


その声は幾度となく繰り返され、次第に大きさを増していく。
川端雄平は布団のなかで身体を海老のようにくねらせて、何やらもぞもぞとしながら眠りこけていた。


やがてその声の主である目覚まし時計の音声に従って、眠気眼で起き上がった。

雄平は今年で20代最後の29歳をまもなく迎える。
19歳の夏にアルバイト先のマクドナルドで店内に流れていた曲に感動し、プロミュージシャンを目指すことを決意する。


それなりに努力するものの一向に開花せず、いつしか10年の歳月が無情にも流れた。
来年には30歳を迎える。
もういい歳だ。

いつまでもアルバイトでは良くない。
俺の人生はこのままでいいのか!


生涯プロミュージシャンを目指し、歳だけを重ね、その代償として一度限りの人生を失ってしまっていいのだろうか。


俺を育ててくれた両親の想いを無駄にしていいのか!
いっそ、就職して普通の人生を歩むべきなのか。

友人や同年代の人たちは普通に就職し、今では家庭をもち、幸せな毎日を送っている。


それを思うと不安で頭がいっぱいになる。
俺は一生を浮き草生活のまま、終えてしまうのではないだろうか。


雄平の頭のなかでネガティブな感情ばかりが浮かんでは消えない。

カーテンの隙間から射し込む陽光さえも、心を落ち着かせる役割を果たせずにいた。


台所で顔を洗う。冬間近の寒さが、冷水をより冷たくさせている。
身支度を終え、玄関の鍵を閉めてアルバイト先へと向かう。


住み慣れた木造二階建ての実家は、至る箇所でリフォームされ、両親の住居への愛着心が見てとれる。


雄平は玄関横の駐輪場の扉を開けて、黒一色の自転車に跨がった。

雄平はアルバイト先のコンビニまで、いつものようにギターを肩に抱えて、歩くよりは速く走るよりは遅くといったスピードで車輪をこいだ。


機嫌よく鼻歌を響かせ、ペダルをこぐ。
今朝の憂鬱感が嘘のようでならない。


次の交差点を左にハンドルを切れば、勤務先のコンビニが待ち構えている。

信号が赤に変わる。
顔を左に見やると大きな公園がある。


いつもはこの場所でギターを抱え、アカペラでお気に入りの歌を披露している。


主に小学生が、雄平にとっての観客の役目を担っている。
稀に主婦や浮浪者やキャバ嬢も、雄平にとっての観客となっていた。

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