夢を叶えた五人のサムライ成功小説【川端雄平編】12
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
三人はテーブルに座った。
オーナーの玉山が上機嫌な顔で近寄ってきた。
柴田と玉山が馬鹿笑いをしながら葉巻を吸いだす。
アンティークな装いの店内はやはり落ち着きがあり、その空間をより際立てるように壁に飾られた額縁のなかの絵画が高級感を演出していた。
雄平は由里に柴田との付き合いは今日が最後だとアイコンタクトを続けざまに送ったが、あっさりと勘違いされた。
目が痛いのではないかと判断され、ポンと雄平の手には目薬が渡された。
雄平はもはや、どうでもよい心境にさえなっていた。
林がMCに紹介されたと同時に胴上げが終わる。
林は地べたに激突したが、運が良かったのだろう。
尻をやや痛めただけで無事だった。
手枕昌平とセンチュリー吉田、ナンセンス南と高枝切子、万田小百合がエールを送る。
集まった客たちも待ってましたとばかりの大歓声を一斉に送る。
店内は拍手喝采の渦に包まれ、一曲目のイントロが流れ出した。
マイクを口元にあてがう。
林は狂ったように歌いだす。
柴田が急に真剣な眼差しで雄平に言った。
『よく聴いておくことだ』
チェッと軽く舌打ちを鳴らし、ステージへと眼差しを向けた。
うまい。
いや、うまいなんてものじゃない。
上手すぎる。
林が素人なんて嘘だろう・・・。
絶句した雄平に柴田が止めを刺さんばかりに一言を放つ。
『お前の歌には優しさがない。優しさをまったく感じない』
『そんなわけはないだろう。常に感情を込めて歌ってるんだ』
『それは思い込みだ』
それにしても上手い。
心奪われそうだ。
少しずつ林の歌声に聞き惚れてしまい、まるで酒の酔いが全身に回ったような感覚に陥った。
隣の席の由里は口元が緩んでしまっているためか、よだれをふしだらにも垂れ流していた。
場に居た大勢の人たちもまた目を閉じて聞き惚れていた。
付け入る隙の欠片さえ存在しなかった。
『柴田さん、あの人はどうしてプロになれないのですか?』
柴田は雄平の問いかけに答え始めた。
演奏は続く。
舞台ではいつしか、センチュリー吉田が全裸で踊り、他の四人もまた乱舞していた。
客までもが一緒になり、大混乱のなか、演奏は留まることなく、次々と消化されていく。
いつしか由里までもが林の隣で、ダンスを惜しみなく披露していた。
曲が終わりに近づこうとしている。
20曲は歌ったのではないだろうか!
にも関わらず、声と音量や質に狂いはなく疲れも見えない。
ボソッと柴田が呟いた。
『彼は自分の歌を最大限に引き出してくれるギタリストを探している』
『それとプロになることに何の繋がりがあるのですか?』
雄平の声に思わず、力が入る。
『彼はだね。元々はギタリストだったのさ』
『それがどうしてヴォーカリストに』
柴田はフッと微笑を浮かべ、結論から話し始めた。
『あいつ・・・ギターが大好きでね。だがギターの才能がまったくだ。それでもギタリストになるって言い通してね。歌が上手いから歌い手ならプロになれると言い聞かせたのさ』
『でもプロじゃないのですよね』
『あぁ。腕のいいギタリストと出会ったらプロになるそうだ』
雄平は少し林のことを尊敬した。
誇りを持ってる男なんだなと・・・。
『林も出会った頃はお前みたいに自覚してないから説得するのに時間がかかったよ』
『何故、そこまで親身になれるのですか?』
『俺は本気で夢を追いながらも夢で終わる哀れな連中を夢で終わらせたくはないのさ』
雄平は少し、柴田にも尊敬の念を抱いたのだった。