夢を叶えた五人のサムライ成功小説【高木京子編】5
この作品は過去に書き上げた長編自己啓発成功ギャグ小説です。
温泉旅行当日。
この日は穏やかな天候に包まれた。
近所では小学生たちの元気な歓声が聞こえ、行き交う車のクラクションが平日の騒がしさを際立てていた。
啓太は爆睡したが一瞬に過ぎなかった。
結局、一睡も出来ずに朝を迎えた。
京子は啓太の充血した眼を見て心配そうに問いかけた。
『あなた、眼が真っ赤よ。大丈夫?あまりの嬉しさに眠れなかったの?』
啓太はまるで二日酔いの症状でもあるかのように虚ろな眼で答えた。
『なんでもないよ。気にしなくて構わない』
そうは言われたものの京子はそういう訳にもいかず、理由をそれとなく聞いてみた。
『あぁ、楽しみで待ち遠しくて一睡も出来ずにいたんだよ』
『ほんとに大丈夫?一睡も出来なかっただなんて、よほど待ち遠しかったのね』
啓太は京子に言いたかった。
言いたくて言いたくて仕方がなかった。
でも京子の心遣いを思うととても言えなかった。
眠れなかった理由が京子の叫び声が原因だったことを。
そう、昨夜、二人。
同時にベッドに潜り込んだものの身体を横にするなり、いきなり京子が秒殺で眠りこけ、すぐさま鼾を書き始め、さらには何度も何度も夢游病者のように何度も何度も叫び出す始末だったのたから。
『温泉だわ。温泉だわ。きゃ~最高』
およそ時間にして一分に一度の割合で京子は夜な夜な繰り返しては喚き散らしていた。
啓太は心のなかでお前の方のがよっぽど楽しみにしていたのだなと、しみじみと思い巡らせては暢気なものだよ!と苦虫を噛み潰していた。
大きなボストンバッグを道連れにふたりはタクシーに乗り込み、電車に乗り継ぎ、隣県にそびえ立つごもく旅館を目指した。
京子は胸がドキドキワクワクしていた。
車窓から眺める景色までもが温泉に見えてならない。
啓太はすっきりしないまま、電車に揺られ、京子の方のがよほど今回の旅行を楽しみにしていたのだなと思っては、彼もまた車窓から飛び込んでくる景色を眺めては、睡魔とただただ格闘していた。