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ようこそ、アントレ部へ(再編)第三話
「あ、アントレ、何?どういう部なの?」
祥二朗は聞き慣れない言葉に首を傾げた。そんな彼に美夜は得意げな顔で言った。
「アントレプレナーよ。簡単に言えば起業家って意味だけど、要はこの部は起業家を輩出させることを目的としているのよ。」
美夜の話に、再び祥二朗は目を大きく見開き、目を皿のようにさせた。
「き、起業家!?え、姉貴起業しようとしてるん?」
「ええ、そうよ。どうせ新しいこと始めるんなら、誰もやってないようなことやりたいなって思ってさ。」
「いや、それにしてもよく部に出来たな。ウチの学校、たしかアルバイトとかも禁止だったはずなのに。」
「まあ、確かにねぇ。」
美夜は腕組をすると、その当時のことを思い出したのか、どこか遠い目となった。
「先生達の頭の固さときたら。特に遠野先生とか、『ウチは進学校だから、まずは学業に力を入れなさい』なんてことを何度も何度もクドクドと言われたのよ。まあそれでも、あたしの実力をもってすれば、そこはちょちょいのちょいって説き伏せてやったのよ。」
鼻高々に話す美夜。その傍であやがクスクスと可笑しそうに笑った。
「嘘ばっかり。何度も断られてもその度に資料を作り直して、何度も直談判した結果、ようやく認められたミヤさんの姿。私、しっかり見ていたんですよ。本当にかっこよかったです。」
その話は隠しておきたかった美夜は、顔を赤くした。
「や、止めてよ。別にわざわざ言う必要ないじゃない。・・・まあいいわ。」
美夜は気を取り直すように軽く咳払いをする。そして、元のキリッとした表情に戻すと、祥二朗に向き直って言った。
「それよりも祥二朗。あんた、どうせまだ部活決めてないんでしょ?だったら、うちの部に入りなさい。」
「はあ?」
唐突な姉の提案に、祥二朗は再び目を丸くして、今度は口を大きく開けて叫んだ。
「いやいやいや、何勝手なこと言ってんだよ。俺にだって部活を選ぶ権利は―――。」
祥二朗が反論をしようとした時、美夜が彼の口元に手を持っていき、話を制した。
「まあ聞きなさい、多分あんたにとっても悪い話じゃあないから。」
高校生になり、身長もとうの昔に姉を追い越していたが、長年の関係性からか、祥二朗は美夜の言葉に素直に頷くしかなかった。
「まず、あんたのことだから、どうせ拘束時間があんまりなく、なるべく早く家に帰ることが出来る部活がいいんじゃない?」
図星を突かれた祥二朗だったが、今度は素直に頷くことは出来なかった。何故なら、近くであやがいたからだ。なので、祥二朗はただ何も言わず、美夜から目を逸らすのだった。
そんな彼の様子を見て、美夜は満足げな顔をして、話を続けた。
「図星のようね。まあ当然よね、ここの高校を選んだのも、ただ単に家が近かったからなんてふざけた理由だったもの。まあ、それでも合格しちゃんだから、ホント世の中って不公平よね。」
「う、うっさい。別にいいじゃん。」
「ええ、別に構わないわよ。ただ、あたしは必死で勉強してここに入ったってのに、あんたは受験シーズンも勉強してる姿なんて見たことないもの。一言くらい文句を言わせなさい。」
「お、横暴やん。」
祥二朗は口ではそう言いつつも、内心は姉に認められていると感じ、嬉しくなった。すると、そんな彼の肩に美夜はポンと手を置いた。
「まっ、そんなわけで、あんたは癪だけど何だかんだで結構優秀な人間なの。ただし、自分以外の人間に縛られるのが大きっらいな自由人でもある。違う?」
「うっ、まあ確かに強くは否定できんけど。」
「でしょ?だからこそ、あんたにはこの部が一番だと思うわ。この部に入部して、あんた部長になりなさい。」