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ようこそ、アントレ部へ(再編)第四話

「はあ!?部長!?俺が!?」

今日何度目かも忘れるくらい、再び祥二朗は目を見開いて驚きの表情を浮かべた。そして、その表情のまま、すぐに手と頭を振った。

「無理無理無理、いきなり起業目的の部の部長とか俺には出来っこないって。それにそこにいる・・・ええと。」

そう言って、祥二朗は美夜の近くにいる少女に目を向ける。当然、彼は先程の二人のやり取りから、その少女の名前があやであるだろうことを察してはいたが、同年代の異性の名前を気軽に呼ぶという真似は彼には荷が重かった。

そんな祥二朗の心境を察したのか、あやが慌てたように話し始めた。

「あっ、すみません。じ、自己紹介がまだでしたね。は、初めまして。私は二年三組の立原綾乃と言います。よ、よろしくお願いします。」

”あや”改め綾乃は自己紹介をするや否や、勢いよく深々とお辞儀をした。そんな彼女のあまりの大袈裟な挨拶に、祥二朗は思わずたじろいでしまった。

「あ、はい。ご存じかもしれませんが、坂東美夜の弟で一年一組の坂東祥二朗です。こちらこそ、よろしくお願いします。」

それと同時に、綾乃が年上だったことに驚きつつ、彼女につられるように祥二朗も自己紹介をすると、彼女と同じように深々と頭を下げた。

その後、少しの間、二人の間に沈黙が流れる。気まずくなった祥二朗が頭を上げると、綾乃もちょうど頭を上げる所だった。

目が合う二人。恥ずかしくなった祥二朗は、サッと目を逸らした。ただ、祥二朗からは窺えなかったが、綾乃も同じように彼からサッと目を逸らしていたのだった。

「ふーん。なるほどねぇ。」

そんな二人のやり取りを見ていた美夜が顎に手をやりながら、怪しく笑った。そんな姉の表情に気付いた祥二朗がじとりと少し睨むように見ながら言った。

「・・・なんだよ。」
「いいや、なんでもないよ。それよりもまだ話が途中だったんじゃない?」

美夜に指摘され、祥二朗はハッとした表情をすると、再び美夜に訴え始めた。

「そうだよ。入部するとかどうかも決めてないのに、いきなり部長とか意味わからんし、それにその・・・た、立原さんを差し置いて俺とかあり得んやん。」
「確かに、あんたの言い分は分かるわ。だけど、これはあやちゃんとの約束みたいなものもあるのよ。」
「約束?」
「ええ、それはあやちゃん、あなたからコイツに伝えられる?」
「は、はい!」

美夜から話を振られた綾乃は、大きく深呼吸をした。そして、意を決したように話し始めた。

「わ、私は見ての通り、人見知りであまり人と話すのが得意ではありません。な、なので、私はここで少しでも人見知りを治したいとミヤさんに相談したところ、この部に所属することになったんです。そ、その時に、あの、あまり重要なポジションというかや、役割の担うのは、そのむ、難しいともつ、伝えたんです。」

綾乃は何度も言葉に詰まりながらも、一生懸命に話していた。そんな彼女の姿に、祥二朗の胸に言いようもない何か温かなものが広がるのを感じていた。例えるなら、動画の配信サイトで犬や猫などの動物達が戯れている動画を見ている時のようなそんな気持ちだった。

そんな風に祥二朗が少し惚けて綾乃を見ていると、またもや美夜がニヤニヤと笑いながら祥二朗に声を掛けた。

「もしもーし、ちゃんと聞いてる?」

その声に、祥二朗はまたハッとした表情を浮かべると、取り繕うように真面目な顔を作った。

「ちゃ、ちゃんと聞いてるよ。要するに、彼女が入部する時の条件として部長とかの重要ポジションを任せないってことだから、俺が部長になれってことだろ。」
「そうそう、まあ当然すぐにって話じゃないわよ。折角作ったのにすぐ引退なんてあたしも嫌だからしばらくはあたしが暫定的な部長として活動するけど、大丈夫だと思ったらすぐに部長の座はあんたに譲るからさ。」
「だ、だからまだ入部するとも決めてないのに。」

祥二朗は口ではそう言いつつも、内心ではこの部に入ることに前向きとなっていた。理由は当然、綾乃の存在である。

部の活動を通して、彼女と仲良くなれるのではないか。

そんな打算が既に彼の脳内でグルグルと渦巻いているのを感じていたけれど、それを綾乃に悟られることを恐れ、素直に表に出すことが出来ずにいたのだった。

ただ、そんな彼の葛藤は次の綾乃の言葉ですぐに砂上の城のように崩れ去ることになった。

「お、お願いします。か、勝手な言い分かもしれませんが、わ、私ミヤさんの弟さんなら安心して活動出来そうな気がするんです。だから、こ、この部に入ってくれませんか?」

ここに連れてくる時と同じように、必死でお願いしてくる綾乃の姿を見た瞬間、祥二朗の口からほとんど条件反射のように「うん」と言う承諾の言葉が零れ落ちていた。

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