
バトル曲を書く時考えてること。(兵力編)
「兄貴の酒蔵」まであと2週間を切りました。
今回はサントラの華のひとつでもある、バトル曲について考察したいと思います。
僕も劇伴作曲家ですので、バトル曲はなんだかんだと書く機会が多いのですが、その時に考えてることを、何回かに分けて説明したいと思います。
バトル曲と言っても、いろんな場面があるわけです。
いくつか分類して説明します。
シナリオ上の規模、フィールドによる見方
複数人数が入り乱れる「乱戦」なのか、「一騎打ち」なのか。
乱戦なら、どのくらいの人数の規模感で、どの場所で戦っているのか。
このへんは、音楽としてのスケール感を決めるうえで重要です。
これは「人物の一人ひとり」を描くのか、「戦闘の風景を描くのか」を考えます。ミクロなのかマクロなのか…という考え方です。
でかい戦闘(兵力1,000人〜)
平原などで1,000人クラスの兵力が衝突してるとなると、とにかく大げさなくらいスケールがでかくなるわけで、オーケストラをドカン!と使おうか…という気持ちになります。
実際にオーケストラを使わずとも、それっぽいスケール感なら良いわけです。
こういう場面では、音楽の緩急で場面をつくるというより、全体の空気感をどうしうたいのかという、観点が大事なんじゃないかなと思います。
僕が思うこのパターンの例は、映画「天と地と」の合戦のシーン。
小室哲哉さんの「炎」が使われてるシーンです。(動画6:52くらいから)
また、兵力ではなく、現代的な兵器による火力をドッカンドッカン使う場合も、結果的に規模は大きくなるので、同様の考え方をします。
イメージ的には、映画「地獄の黙示録」で、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」が使われてたのがわかりやすいかなと思います。
これは場面として、音楽は何を説明しているかというと、戦っている人物の一人ひとりの顔や心情を描くというより、フィールドの広さを元にした戦闘の規模を表現するわけです。
こういう観点で作曲すると、たとえ決して広くない劇場のステージで、10人くらいの殺陣であったとしても、印象として「これは遠くにより多くの軍勢が戦ってるんだな…」というような感覚を与えてくれます。
その分音楽で、個々人の心情に寄り添うことは、あまりないかなぁ…と思います。
この場合の個々人の心情や表情は、演者さんにお任せして、音楽は背景を描くのに徹するのがいいかなぁって思ってます。
僕の作品だと、あんまりこの規模の戦闘がある作品を手掛けることが少ないので、ちょっと例に上げづらいんですが、「鬼神」という曲がそれに近いかな?
どこでもまだ使ってない曲なんですが、イメージ的には大規模な開戦で作ったものです。
中規模バトル(10人〜100人)
これが、100人以下、数十人程度の衝突だとどうなるか。
まず、フィールドが変わります。だだっ広いフィールドである可能性が減りますし。仮に平原だったとしても、そんなに広さを表現する必要がありません。
障害物の多い森林の中かもしれないし、遮蔽物の多い岩場かもしれません。
あと、このくらいの規模だと市街地戦の可能性が出てきますね。
ここで描きたいのが、障害物までの距離、敵との距離、緊迫感、フィールドにより変わる音の反響などになります。
緊迫感とか、心理的な優勢劣勢も入れやすいので、少しだけ人物に心理面を考えたります。大規模戦闘のBGMを作るときより、考え方がより「戦術的」になります。
この辺は、シナリオによって、空間の幅を調整します。
もちろんオーケストラ系の楽器を使ってもいいのですが、シンセや打ち込みのドラム、サンプリングを使って、ディティールにフォーカスしやすい音を入れると、音がまとまりやすいなぁ…なんて思ってます。
ゲーム音楽の戦闘曲なんかが参考になりやすいのかもしれません。
例えば、Metal Gear Solid 1の戦闘BGMなんかいいですね。
パーカッションとか低音のガーンっていうピアノっぽい音のリバーブ感が、適切なスケール感を出してると思いませんか?
Call of DutyシリーズのBGMもいいです。
オーケストラ楽器は入ってるんですが、打ち込みやらシンセが音をグッと引っ張って芯を作ってるので、いい感じにスケール感をコントロールしています。
あと、パーカッション系のスピード感で緊迫感の演出をコントロールしているところも大事です。
あと、このくらいの規模感になると、ギターを入れると音がバシっと締まるので、スケールが大きすぎず散逸にならずに済んだりします。
僕の作品でいうと、舞台「誠の挽歌」の池田屋事件のBGMがそれに該当すると思います。(動画1:43あたりから)
これは歴史の転換点としてのスケールの大きさと、市街地戦…いやさらにコンパクトな室内突入戦というショートレンジなシチュエーションを混ぜると、こんな感じかな?って思って作りました。
一方、同じく「誠の挽歌」の油小路事件のBGMは、市街地戦でも屋外なので、すこし描き方が広くなってるんですよね。(動画35:30あたり〜)
一騎打ちの場合
これは、実はもうスケール感の話ではないんです。
ここまでくると、人物の心理、心情にグッと音楽を近づける必要があるので、考えることが結構変わります。
この編は、バトル曲心理編で、一本記事が書けそうなので、そっちにまとめることとして。
今回は、バトルの規模で考えるBGMの作曲のお話でした!