【ヤクルト】一軍ブルペンでの”仕事”
こんにちは。でぃーだ(@Dee_bbyS)です。
2021年に日本一に輝いた東京ヤクルトスワローズ。
その原動力となったのはMVP村上宗隆や”スーパースター”山田哲人といった東京ヤクルトスワローズを象徴する選手の活躍もさることながら、
マクガフや清水昇らを中心としたブルペン陣の活躍があったのは今更私が言うまでもないでしょう。
その証拠がチームのシーズンホールド記録の更新です。
こちらもシーズンの個人記録を更新した清水昇の50ホールドを筆頭に、チームで積み重ねたホールド数は149。これまでの記録であった2019年阪神の145ホールドを抜いて単独トップとなりました。
今年から延長が12回に戻ることを考えると、更なるブルペン陣の活躍も必要です。一方でどうしても負荷のかかるブルペンという場所の特性上、勤続疲労で成績を落とすことも考えられるために、継続的な新戦力の発掘も不可欠であります。
今回のnoteではそんな中で、ヤクルト2軍(以下、戸田軍)で取り組んでいた少しだけ興味深い取り組みについて取り上げていきます。
プロローグ:"2年目の飛躍"を見せるドラ1
さて、戸田軍の興味深い取り組みを探る前に、昨年は1軍での出番がありませんでしたが、今年1軍ブルペンで奮闘している木澤尚文について取り上げます。早速横道にそれますが関連はありますのでご容赦を。
躓いてしまった1年目
最速156km/hの力強いストレートと鋭い変化球を武器に慶應義塾大学から2020年ドラフト1位で期待を受けて入団した木澤尚文ですが、
ルーキーイヤーは2軍で22試合(11先発)69.2回で防御率6.07 WHIP1.82、1軍では登板機会なしと完全にプロの壁にぶつかってしまいました。
こちらに貼ったツイートは良い登板の時のものですが、昨年の木澤尚文は登板毎の差が激しく、また持ち前の球速は出ているものの制球がばらつきボール先行になってしまって自分を苦しめてることが主な課題でした。
花開きつつある2年目
そんな悔しい1年目を経て、ゾーンで動かすボールの必要性を感じた木澤尚文は、オフにシュートの名手・原樹理にも教えを請い新たにシュート習得に取り組むとともに、
キャンプでは体のブレをなくすために、両脇に”ダミーくん”人形を置いた状態でのブルペン投球を実施して課題の解決を目指しました。
そして迎えた2年目のオープン戦では7試合(6回)で防御率3.00 WHIP1.67。
良い結果を残していたとは言い難い数字ではありましたが、力強いボールが評価されたこと、更には昨年の勝ちパターンでもある今野龍太と25試合登板星知弥がコロナで離脱した影響もあってか開幕1軍入りを果たしました。
そして開幕を迎えた木澤尚文は1軍でプロ初登板を含む4登板を経験し、このような結果となっております。(※4/7終了時点)
自らのエラーも絡んだ2失点こそありましたが、ここまで4試合(6回)で防御率0.00 WHIP0.66(4/6時点)と素晴らしい結果を残し、自分の地位を確立しつつあります。1軍の舞台でアドレナリンが出ているのか、持ち前の気迫を前面に出す投球スタイルが戻ってきたのも嬉しいですね。
さて、今年の木澤のピッチングで特筆すべきは2点あります。
1点目は字面だけ見ればもはやサッカー選手かの如く、新球種シュートを投じていること。なんと投球全体の59.5%がシュートです。
(※昨年の近藤弘樹のシュートの割合も同等の59.0%でした)
↑ 木澤尚文 プロ初登板の時のデータ(from:@bb_satoru)
そして2点目がストライクゾーンにしっかりと投げ込めていること。
ストライクゾーンに投げた割合(Zone%)が昨年の2軍では36.9%でしたが、今年の1軍登板では47.6%と増加しております。
(※Zone% 47.6%は昨年のスワローズ投手陣では今野龍太と同等水準です)
勿論、1軍では現時点でたった84球しか投げていないためサンプル不足であり、今後大きく数字がブレる可能性は否定できませんが、
ゾーン内で勝負出来るシュートという球種を得たことで、彼の最大の持ち味である強いボールをストライクゾーンに投げることを恐れなくなり、
多少アバウトなコントロールでも打者と自身を持って勝負が出来るようになったことがここまでの飛躍に繋がっているのではないでしょうか。
また、打者はゾーン内に投げられるシュートを強く意識させられるため、逆方向に変化しながら鋭く落ちる(元々木澤が得意としていた)カットボールに対して、相手打者がつい手を出してしまっているようにも見えます。
こういった球種間での相乗効果も相まって、
今年の木澤尚文の進化が生まれたといえるのではないでしょうか。
さて、今回は戸田軍での取り組みを紹介するnoteと謳っておりましたが、
何故現在1軍で投げている木澤尚文を取り上げたのか。その理由は次の項で分かるかと思います。
(※単純に木澤尚文について書きたかったというのも大いにありますが…)
本編:戸田軍が行う、新たな取り組み
前置きで語ったような「新しいリリーフ候補を探したい」という事情もあってか、今年の春季キャンプは育成選手も含めて、あまり実績がないながらも1軍のリリーフ候補となりうる投手が浦添キャンプに多く呼ばれました。
下のnoteで取り上げた杉山晃基や丸山翔大(育成)を始め、前項で取り上げた木澤尚文や、昨年加入した宮台康平や小澤怜史(育成)といった面々がそれに該当するでしょう。
この中から木澤が1軍に抜擢されて結果を残していますが、多くの投手が我こそは”Next木澤尚文”になろうと、戸田の河川敷で今か今かと力を蓄えております。
1週間のリリーフ投手起用を見て
さて、ここからが本題。
早速ですが、ここで3/29-4/3 1週間の戸田軍の投手起用について記します。
(凡例:久保拓眞③0…久保拓眞が3回0失点であったことを意味します)
こちらを見ていただければ分かるかと思いますが、リリーフで登板した投手が軒並み回跨ぎをしていることに気付いたでしょうか。
去年までの戸田軍では(先発要員以外の)回跨ぎは月に数回ある程度、
しかもその多くがまだ投手としての役割を明確にしていない状態のルーキーたち(木澤,嘉手苅,下,丸山翔大)でしたので、
改めてこの起用の異質さがうかがえるかと思います。
※参考:ちなみに、昨年6月の20試合で回跨ぎしたのは延べ10人。
そしてその内で3人は先発要員の調整のため、延べ5人はルーキーだったことを考えると、純粋なリリーフ投手の回跨ぎはたった2人でした。
ゴールは戸田球場を締めることに留まらず…
では何故このような起用に至ったのか。
ここからはあくまで私なりの仮説とはなりますが、現在の木澤尚文が1軍で担っている役割=モップアップについて考える必要があると感じます。
モップアップは、主に先発投手が失点を重ねて長いイニングを投げられなかったことによって発生するため、翌日以降の試合も考えると複数イニングを消化することが求められる役割と考えています。
そして、実際に木澤尚文は4試合中2試合の登板で回跨ぎをしています。
一方で、基本的には中継ぎ投手は1イニングを全力で投げるのが主な役目。
特に勝ちパターンになるとその傾向は顕著で、2021年に12球団最多の72登板をこなした清水昇も(延長戦がないという特殊なシーズンであったことを考慮しても)レギュラーシーズンでの回跨ぎはたった1試合のみでした。
そう、ここに少しばかりの差があるのです。
1軍に昇格する投手の大半は2軍で結果を残したためにそのチャンスを得ることが出来ますが、リリーフ投手の場合は2軍で1イニングの登板を重ねて昇格に値するかが判断されることが多いように見えます。
一方で、実績がないリリーフ投手がシーズン途中から1軍に昇格した際に、最初から勝ちパターンを任されることは当然ながら稀で、多くの投手が今の木澤尚文のように回跨ぎで複数イニングを投げることを厭わないモップアップを担うことから始まります。
…つまり、1軍で自分の立場を上げるためにはモップアップで結果を出すことを求められます。しかし、1軍に上がって最初に求められる”リリーフとして複数イニングを消化する”という経験を、2軍ではあまり積めていないことが多いように常々感じていました。
そんな個人的な疑問を解消するような今回の戸田軍の取り組みは、
経験豊富な投手(※参考:歴代最多1002試合登板を誇る元中日・岩瀬仁紀コラム)でも難しいと語っていた回跨ぎの臨み方を知ることが出来たでしょうし、これは将来的な1軍定着の大きな助けとなったのではないでしょうか。
一方で、ここまで書いてきたことの多くが私の推測に基づくものであり、今回の投手起用がそのような背景であったかは分かりません。
実際、次の4/4~4/10の1週間(※4/9時点)では、離脱していた投手が4人も実戦復帰した影響か、リリーフ投手の回跨ぎは1度しかないのも事実です。
しかしながら、リリーフ投手が1軍で自分の立ち位置を確立するためには、モップアップの役割を避けて通ることはほぼ不可能です。
木澤尚文も現状は1軍での役割は大きくは変わっていないものの、こういった投球を続けることで1軍首脳陣からの信頼は増すでしょうし、少なくともファンからの目線は大きく変わりつつあります。
シーズン143試合という視点で考えると、地味ながらチームにとっても大切な役割であるモップアップ。次は誰がこの役割を足掛かりに飛躍するかという視点で注目してみるのも面白いのではないでしょうか。
エピローグ:『一軍監督の仕事』出版によせて
髙津臣吾監督がヤクルト2軍監督時代に出版した『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~』にこんな一節がありました。
文章内では1軍と2軍では体格や技術に「ギャップ」があると表現していましたが、1軍と2軍で求められる役割の変化もその「ギャップ」の一つではないかと考えております。
そして、今回戸田軍が行っていた回跨ぎのリリーフ起用は、結果的に「ギャップ」を埋めることに寄与するのではないか…と、『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~』を読み返していて改めて感じました。
さて、それ以外にも野球の見方に対して様々な示唆を与えてくれる名著『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~』ですが、
その続編とも言うべき『一軍監督の仕事~育った彼らを勝たせたい~』が4/13に刊行されることとなりました。
出版元である光文社新書(@kobunsha_shin)のツイートを見る限り、
日本一に輝いた2021年の振り返りが中心ながら、髙津監督が思うスワローズのこれからや野球観にも触れているような内容と見受けられ、今から楽しみが止まりません。
髙津監督の考え方はシーズン中もリアルタイムで更新される『高津流 燕マネジメント』でも窺い知ることができますが、
今回発刊される『一軍監督の仕事~育った彼らを勝たせたい~』と合わせることで、更に”髙津采配”を理解でき、より興味深くスワローズの野球を見ることが出来るようになるのではないかと思います。
高校野球などとは違い、シーズンを通してのマネジメントが求められるのがプロ野球。主力選手の大活躍や若手の成長も勿論大切ですが、
モップアップや守備固めといった縁の下の力持ちの支えにも目を向けてみることを私の想いながらお勧めさせていただき、本noteの締めと致します。
<Special Thanks>
悟@野球とデータ(@bb_satoru)様
光文社文庫(@kobunsha_shin)様