肉アレルギー

肉アレルギーは基本的には稀です。
そもそも肉の抗原自体は人の体にも含まれるので、異物として認識されにくいものと考えられています。その中でも報告例も成人に多いため、特に小児期には稀だと思われます。しかし、それでも肉アレルギーのお子さんはおられ、正確な診断をすることで必要な対策がみえてくるものもあるため、まとめてみます。

肉アレルギーには主に3パターンあると考えられます。

① 重症アトピー性皮膚炎・重症牛乳アレルギー児における牛肉アレルギー

② Pork-cat syndrome

③ α-gal syndrome

①についてはアトピー性皮膚炎、及び牛乳アレルギーへの対応を行うことで自然と寛解することが期待されます。
ややこしいのは②・③で、いずれも交差反応といって、肉自体を異物(アレルゲン)として認識したわけではなく、別のものに感作されることで、似た構造をしたタンパク質の肉に反応してしまうことになります。

Pork-cat syndrome
これは豚肉の血性アルブミン(Sus s)というタンパク質と構造が似ているネコの血性アルブミン(Fel d 2)に感作されることで、豚肉を食べたときにアレルギー症状を起こす状態です。
Pork(豚)・Cat(ネコ)なのでこの2つしか関与しないように思えますが、血性アルブミンは獣肉では比較的構造が似ているため、豚肉だけでなく牛肉や羊肉に反応する方もいれば、感作のもととしてもネコだけでなく、イヌやハムスターなどの報告があります。
理解としては獣肉-ペット症候群という印象です。

後述のα-gal syndromeと異なり、だいたい食べてから30-45分後に即時型アレルギー反応が出ることが多いと言われており、鑑別のポイントになります。

原因となるタンパク質は血性アルブミンですが、血性アルブミンは加熱することで壊れてしまいます。生焼け肉や燻製肉などでの発症報告が多いですが、一般的にはよく加熱された肉を摂取することは問題なく可能なことが多いです。

ネコを飼っている人は少なくないので、もっとたくさんの患者さんがいる印象はありますが、ネコアレルギーの主要タンパク質はFel d 1というもので、Pork-cat syndromeの原因となるFel d 2の感作率は14-23%と比較的感作されている人は少ないです。また、Fel d 2に感作されていても全員が発症するわけではなく、ネコアレルギー全体の1-3%の人にPork-cat syndromeがあると言われています。

検査としてはコンポーネントであるSus s 1 、Fel d 2 特異的IgEの測定が望ましいですが、保険未収載です。一般的にネコ(飼育しているペット)と肉(可能なら豚・牛・羊)特異的IgEの測定で、ある程度推測できます。また、牛乳特異的IgEは上昇するが、カゼイン特異的IgEは上昇しないというパターンが確認できることもあります。

対策として、肉はよく加熱したものを食べることがあげられますが、それ意外にペットの暴露(アレルゲンとの接触)を避けることで自然と改善することも報告されています。

α-gal syndrome
α-galは鳥類・霊長類を除く哺乳類に豊富に存在する糖鎖抗原です。
(糖鎖というものはタンパク質や脂質と結合して体の中で働くことはわかっていますがどういった機能があるかは十分には解明されていません。)

元々はセツキシマブという薬に対するアレルギー反応の原因が、α-gal特異的IgEと解明されてから、同じ抗体を持つ人がα-galを豊富に含む獣肉(赤肉)を食べることで遅発型のアレルギー反応が起こることがわかりました。
その後、患者居住域がマダニ生息域と一致すること、マダ二の唾液中にα-galが存在することがわかり、α-gal syndromeという概念が提唱されました。

このパターンでは、原因抗原(多いのは牛肉)を摂取後3-5時間後にアレルギー症状を起こすことが多いと言われています。これは糖鎖の消化に時間がかかり、血中に抗原があらわれるのが遅くなることが原因の可能性があるといわれています。
ただし1時間以内での発症もあり、時間経過だけで否定はできません。

診断のためにはα-gal 特異的IgEを測定することが最も一般的であり、感度特異度も高いといわれています(ただ保険未収載)。他に牛肉・豚肉特異的IgEなどの測定が参考になります。個人的にはPork-cat syndromeとの比較のためにもペットがいればペットの特異的IgEも確認が必要だと思います。
また、重要なことはダニ咬傷歴、ダニ生息域での生活、ダニが生息している環境でのイヌ飼育などを確認することです(α−gal syndromeはダニ咬傷によってダニの唾液から経皮感作されるものと考えられているため)。

またα-galの特徴として、α−galに関連するタンパク質の一部は加熱に対して安定(熱を加えても壊れない)なため、Pork-cat syndromeと異なり、加熱肉でも反応することがあります。

またその他特徴として
・B型/AB型では発症が少ない(B抗原とα−galが類似した構造のため)
・カレイ魚卵にも反応することが多い
・マダニに咬まれる回数が多いほど発症しやすい
などが知られています。

Pork-cat syndrome同様に感作源を断つことで自然と改善が期待されます。
この場合にはマダ二を避けて生活することが重要です。


肉アレルギーは難しいですね。
ただ、交差反応としてのPork-cat syndrome・α−gal syndromeはしっかりと診断することで、対策が可能になります。茶のしずく石鹸による小麦アレルギーの話でもあったように、明らかな感作によって発症する食物アレルギーでは感作源を断つことで治ることが期待できるということはとても重要なことだと思います。

なお、鶏肉アレルギーはさらに稀で、メカニズムとしてBird-egg syndromeやパルボアルブミンの関係などが指摘されています。国内での報告は数えるほどしかないため、割愛します。

参考文献
・アレルギー用語解説シリーズ α−gal. アレルギー 2018; 67(1): 72-73
・アレルギー用語解説シリーズ Pork-cat syndrome. アレルギー2020; 69(5):358-359
・肉のアレルギー 最近の話題 アレルギー・免疫 2018; 25: 48-55
・Apostolovic et al, The red meat allergy syndrome in Sweden. Allergo J Int 2016 ; 25 : 49-54

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