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喫茶 BON VOYAGE
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旅の始まりに立ち寄った喫茶店。
近くのお店で腹拵えをして、
腹ごなしに町をふらつくと、路地に小さな看板が立てかけられていて、喫茶の二文字。
細い古びた階段を上がって、ガラス戸を押し開けた。
深紅のヴェルヴェットのふかふかのソファー席、窓辺の椅子の席。時間が染み込んだクリーム色の壁、オムライスとナポリタン。ピラフにホットケーキ。珈琲には当たり前にさりげなく甘いチョコレートが2つ添えられる。ホワイトとミルクの二段重ねになったあの懐かしいチョコレートだ。
窓からは鮮やかな空の色を思わせる光が入り込んでいた。
いい旅の始まりだな、と思った。
きっと、面白くなる!
、、、、
あの街にあった、あの喫茶店は、姿形を変え名前も持たぬままに、あの日からわたしの中に勝手に棲みついて、勝手に営業を始めた。
だから、その店にそろそろ名前をつけることにした。
『喫茶 BON VOYAGE』
人はときどき、空を飛ぶ。
空から落っこちてくることもあれば、空に帰ることもある。そして、それ以外のときにも飛んだりする。時間や空間を越えて、飛ぶことがある。
喫茶 BON VOYAGE の珈琲もそれだ。
懐かしいあの時間や、あの時あの人に言いそびれた言葉。もじもじして仕舞い込んだくせに忘れられないで、しわくちゃのまま握りしめている手紙のような気持ち。その、溶け切らない底に沈んだざらっとした砂糖のようなもの、全部。全部。
珈琲にはミルクと砂糖はいつもより少し多めに入れて、しっかりかき混ぜて、深呼吸。
空が透き通ってよく晴れた日には、全部、ちゃんと飛んでいくよ。
、、、
梶井基次郎の文庫本を昨日、何気なく読んでいたら、『蒼穹』が出てきた。
どんな意味だっけな、と調べたら、大空。蒼空、という意味らしい。
今日の空みたいな日のことか、と思った。