真赤なバラ
そろそろ春めいてきた外の風景。
すぐ裏を走る電車の音も、カタコトといつもより
リズミカルに聞こえる。
そんな風景とは別に小さな事務所の一室は、
膠着状態に入っていた。
「ん〜なんかちゃうんやなあ。。」
「…」
初めての取引先で、社員もいない社長ひとりの会社だった。
とりあえずラフを提出(この行為自体どうなのだが)したもののお気に召さないようである。
「あ、前に一発で売れた物件のチラシがあるんや!それを見てや。」
ガラッパチ、べらんめえ調という言葉がぴったりの社長である。
関西弁だから、「べらんめえ」というのも変な話なのだが、私はこの場合当てはまる言葉を知らないので、とりあえず「べらんめえ社長」と心の中であだ名をつけた。
べ:「これや…」
私:「!?」
表面の右下のアイキャッチになる部分に
ド〜ンと真っ赤なバラが鎮座している。
私:「社長、このバラは…」
べ:「どや?グッとくるやろ!」
私:「は…。」
私は、言いたいことをグッとこらえていた。
というより、何を言うべきなのか…分からない。
そして、もう既に費用対効果とか顧客ニーズとか効果測定とかマーケティングとかの枠を越えた領域に飛び込んでいる事を自覚しなければならなかった。
社に帰り、色々考えてみる…
多分通常のパターン、正攻法の構成とデザイン…
つまり物件のメリットを満載したり、家の性能をひけらかしたりするようなモノでは通らないだろう。
なにせ理屈がないのだから…
グッとこなければ(笑)ならないのだから…
じゃあ…
やっぱり…
バラか!?
いや通すためならなんでもするつもりだが、これでも私はデザイナーなのだ。効果がなく、意味のないものは排除しなければならない。
バラに効果がない…?
赤いぞ…
目立つぞ…
十中八九オーケーがでるぞ…
どこかで悪魔が囁く。
妙に赤色が目に痛い…
いや言う通りにしたらそれまでだ!べらんめい社長の想像を越えるモノを出さなければ…
そして三日後
色々と考えた末、二つ案を用意していった。
一つは…
私:「さてこれです。」
ひまわりを配して、キーカラーに鮮やかな黄色を使った。バラよりは若々しく元気がでるイメージだ。気が早いけれど、季節もこれからだ。何より、社長をノックダウンさせる殺し文句も考えてきた。
私:「社長!ひまわりが咲くまでにこの8物件完売しちゃいましょう!」「その意味も込めてひまわりにしたんです!」
決まった!私は一人ほくそ笑む…ま、とりあえずもうひとつの案も出しておくか…
私:「それからこれも作ってます。バラです。」
なんだ結局作ってるのか…と、思われた方もいるでしょう。しかし、私は仕事を落とさずキッチリ収めるプロでありたいと思う。
社長の眉間にシワが寄る。
汗が…流れたかもしれない。
「やっぱり…バラやな」
帰り道…
私は、もう何回目になるのか忘れてしまった独り言をつぶやいていた。
「マタ、ツマラヌモノヲツクッテシマッタ」