見出し画像

『帰郷』 究極の田舎リアル

『帰郷』という2話完結の漫画を読んだ。

田舎の従姉妹同士の話で、閉塞感のある田舎から東京へ出たいと言う思いを共有しながらも、結局上京したのは主人公だけ。地元に残った従姉妹の女の子は若くして亡くなってしまい、その葬式のために帰郷する、という話。

舞台はお葬式の後の親戚同士の集まる場所。
その様子は私がいた田舎で見てきたままのそれで、東京へ出た主人公はさまざまな形でその生き方を揶揄される。

「いつこっちに帰ってくるの」

その質問に対して「私は帰らない」と言うと途端に非難され、ついには自分を東京へ出した母親が標的になり、その母親からは「謝りなさい」と叱られる始末。

この主人公はなにも言わずに黙っているけれど、私は痛いほどその主人公に感情移入してしまって今にも発狂しそうになった。
こんなにもリアルを描いた漫画、始めて読んだ……しんどい……

しっかり主人公に感情移入してはいたものの、この「田舎で親戚が集まる」シチュエーションで集中砲火を受ける主人公を同時に客観視も出来ていて、単刀直入に恐ろしい光景だなと改めて思った。

私は実際東京へ出てきた人間だから、田舎の小さな集落にずっといる私の家族や親戚が本当のところどう思っているのかは分からないし、この漫画に登場する主人公の親戚たちの本心も分からない。

それでも、昔からの風習や前進できない文化の中で、価値観を押し付けられることから「逃げたい、ここには居られない」という危機感を持って上京した私の気持ちは、おそらく彼らには理解してもらえない。

ものすごく極端な言い方だけど「個人」であることを良しとしない風潮は、恐ろしいことに今もこれからも変わらないのだと思う。

「ごめんね、私はそっちには帰らないよ、仕事もあるし」

「またそんなこと言って(笑)」

そんな冗談言いなさんな、と言うように笑い飛ばされてまともに受け取ってもらえたことはない。

田舎の祖母と電話で話すたび、コロナ禍で会えないなか募る愛おしさと同時に、呆れや諦め、そして憎らしさにも似た複雑な感情に襲われている。


いいなと思ったら応援しよう!