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【2025年ユーロ見通し】欧州の政治経済から読み解く中長期ファンダメンタルズ【FX】
当記事は、為替市場における「ユーロ単体」について今後の見通しを分析した内容になります。
最初に結論から述べると、ユーロは「売り一択」となります。理由は下記2つです。
①経済要因:インフレによる原材料費高騰が、ドイツ製造業を破壊しつつあり、また一般市民の生活費高騰が、人々の消費意欲を減退させている。
②政治要因:低迷する経済から人々の不安や不満が生まれており、その受け皿として右派ポピュリズム政党が欧州で台頭している。
上記のとおり、経済・政治どちらにもリスク増大がみられ、現在の欧州は厳しい局面に立たされています。この状態が継続する限り、ユーロに関しては「売り一択」しかないと考えています。
※当記事は、政治・経済についてのファンダメンタルズ分析になります。短期ではなく中長期の方向感を探るための材料であり、また必ずこの通りになるという内容ではないことをご理解の上、お読みいただければと思います。
とはいえ、個人的にテクニカルだけでは安定しなかったトレード成績が、ファンダメンタルズ分析を取り入れてから改善しているのは事実です。読者の方にとって何かしらの参考になれば幸いです。
2024年末の欧州が抱える経済的リスク
最近、欧州の各種インフレ指標は下押ししつつあります。それに呼応してECBは連続利下げを決定しており、長らく人々を苦しめていたインフレに終りが見えてきたように思われます。
しかし、事はそう簡単ではありません。
ウクライナ戦争に伴う「ロシア産天然ガス」供給断絶から、欧州全体でのエネルギーコストは高止まったままとなっています。これはロシアと敵対している欧州(NATO)にとって、簡単にもとには戻らない構造的な問題となっているからです。
ウクライナ戦争が始まる前の「ロシア産天然ガス」が輸入できた時代には、エネルギーコストが低く抑えられ、欧州(特にドイツ)の経済や産業を支えてきました。
一般世帯の光熱費や物価を低く保ち、人々の生活を安定させ、またドイツ産業界の要となる「自動車産業の成長」にも寄与してきました。
また、安定供給が見込まれた「ロシア産天然ガス」を担保に、ドイツは国内の原子力発電所をすべて廃止させ、再生エネルギー(風力、太陽光)による発電事業をエネルギー政策の中心に置いてきました。(これは日本の福島原発事故を受けた後の方針転換です。)
しかし、ロシアのウクライナ侵攻以降、ドイツがとったエネルギー政策がすべて裏目にでてしまうことになりました。
ドイツを始め欧州では、光熱費を中心とした生活費全般が高騰し、食品から家賃まで、あらゆるものが高止まりをしています。また大量に電力を使用する製造業の多くは、収益確保が難しくなってきています。
最近では、大衆車の代名詞「フォルクスワーゲン(VW)」がドイツ国内工場閉鎖をする可能性について報道がありました。これは、日本で例えるならトヨタ自動車が日本の国内工場を閉鎖することに等しいものです。
現在、VWの国内工場閉鎖に反対する従業員や工員らが、大規模なストライキを表明、実施しています。今後、どうなるか予断は許せませんが、電力をはじめとした原材料費高騰の影響から、製品をつくる際の投入コストが高くなりすぎていて、ドイツ国内で製品をつくること自体が割に合わなくなってきている状況といえます。
ちなみに、自動車産業は裾野が広い産業として知られています。1台の車をつくるのに数万もの部品を必要するため、完成車を販売するメーカーのみならず、たくさんの中小企業も関わっており、また多くの雇用を生んでいます。
「VWのドイツ国内工場の閉鎖」が現実のものとなれば、中小企業にとっては受注がなくなり、労働者にとっては仕事がなくなることになります。実際に起こってしまったときの影響は計り知れないものがあるでしょう。
製造業によって欧州での覇権を維持してきたドイツですが、ここにきて屋台骨である自動車産業そのものが揺らぎ始めているわけです。
そんな中、国民が抱く不安や不満はどんどん高まっており、政治では政権与党への批判の高まりに加え、右派ポピュリズム政党の躍進が現実味を帯びてきました。
欧州が抱える政治的リスク
2024年、フランスでは首相への不信任決議の連発が起こり、首相交代が今年だけで4人目となる異常事態が起きています。またドイツでも連立政権が崩壊しショルツ首相退陣となったにも関わらず、他に首相候補がいないためにショルツ再登板となる混迷具合。近々、改めてシュルツ政権に対する不信任がなされ2025年2月に解散総選挙が行われる確度が高まっています。
欧州2つの大国である独、仏の混乱した政治状況だけをみてもユーロはなかなか買いづらい状況といえます。重要なことは、為替は何よりも「政治の不安定さ」を嫌う、ということです。
そもそもドイツ、フランスでの政治的混乱を招いた直接の原因は、先述のとおり「ウクライナ戦争とインフレ」でした。それらが国民の生活難を招いており、政治への不安と不満につながっているのが基本的な構図です。
国民の不安や不満、政治への不信を吸収して台頭しているのが、右派ポピュリズム政党です。
ドイツではAfD(ドイツのための選択肢)、フランスではRN(国民連合、旧国民戦線)が大きく支持を広げてきています。
これら右派政党は、移民排斥やナショナリズム、自国第一主義を掲げており、究極的には「反EU」を標榜しています。
今後も右派政党が支持拡大をしていくことになれば、そう遠くない時期に「反EU」を掲げる右派政権が、EUの中心地であるドイツとフランスで誕生することになるでしょう。
これは、EU統合の歴史において求心力の源であったドイツとフランスですが、これが逆向きの力(つまり遠心力)となって、EUの統合そのものが不安定になる可能性も無きにしもあらず、ということです。
その場合、欧州共通通貨である「ユーロ」にとっても、信任が問われる局面が出てくると考えています。
2025年におけるユーロの展望
以上、欧州の政治と経済から「ユーロ」を取り巻くファンダメンタルズと今後の方向感をみてきました。
悪い材料ばかりを書き連ねてきましたが、来年に起こり得るさらに大きなリスクがあります。そう、関税をチラつかせディールを引き出そうとする第二次トランプ政権です。
実際に関税がかけられるのか、単なるトランプ流のハッタリ(ディール)なのかは現時点では定かではありませんが、このリスクについても留意しておく必要がありそうです。
基本的に関税をかけられた場合の対処としては、為替のレートを下げることで対抗することになります。これは第一次トランプ政権に対して、中国が行った対抗手段でした。実際に欧州に対し関税引き上げが想定された場合、ECBは政策金利を引き下げ、また緩和的政策によって対抗することが想定されるでしょう。
現在すでに、ECBは景況感悪化から政策金利を連続的に下げてきており、ラガルド総裁も引き続き「現在の金利は高すぎる」旨の発言をしているように、2025年に入ってもさらなる利下げが見込まれています。この流れは当面続くと考えています。
ここまで欧州の政治・経済のファンダメンタルズみてきましたが、現在の「ユーロ」におけるトレード方針は「売り一択」の結論となります。
ファンダメンタルズの転換シナリオ
ここで注意すべきポイントとして「ユーロが買われるファンダメンタルズの変化」を述べておきます。
ユーロが買われるシナリオとしては、下記2つがあると考えています。
①ウクライナ戦争の終結
②ウクライナ戦争の激化
①ウクライナ戦争の終結
欧州での政治・経済における混乱の原因である「ウクライナ戦争」が終結するシナリオ(終結していなくても良く、終結に向けた流れや取り組みが見えてくるシナリオ)です。
この場合、一時的にユーロの大きな買い戻しが入ると思います。実際、アメリカ大統領選中にトランプは「ウクライナ戦争を24時間以内に終わらせる」などと発言を続けていました。大統領就任後、戦争をやめさせるためのコミットメントをしてくる可能性が考えられます。
とはいえ、もしウクライナ戦争が終わったとしても、ロシアに対する欧州(NATO)の敵対関係は変わりません。つまり、以前のように安価な天然ガスをロシアから買うことはできず、現在の欧州が陥っている大きな構造の変化には繋がらないとも言えます。
②ウクライナ戦争の激化
①とは真逆の理由で「なぜ?」と思われるかもしれません。
しかし、このシナリオが起きるのであれば、トレンド転換になり得る大きなユーロ高が想定されます。(これが実際に起きた場合、市場は最初「リスクシナリオ」と判断するはずなので一旦大きく売られると思います。が、そこが一番の買い時になります。)
現在、欧州(NATO)のウクライナ戦争に対する基本的なスタンスは「後方支援に徹すること」です。これは欧州が、戦争がエスカレーションするのを嫌っており、ロシアを極力刺激しないよう、また第三次世界大戦を避けるためにとっているスタンスです。結果として、ウクライナへの全面的な支援には至っていません。
ウクライナ戦争の激化とは、これを1歩も2歩も前進させ、全面的にウクライナ支援を始めるシナリオであり、欧州全体でロシアに対抗するような「戦時経済体制への移行」が起きることといえます。
聞き慣れない「戦時経済体制」ですが、簡単に言えば、有事において国家が全面に出てき、あらゆる民間企業や産業を動員し、軍需生産を行う総動員体制です。
歴史を振り返れば明らかですが、この「戦時経済体制」ではありえないほどの好景気が生まれます。これは平時ではなかった需要(兵器、弾薬、医療や食料物資などの生産と流通)をもたらすからになります。
死んでいた製造業は息を吹き返すでしょう。工場はフル稼働となり、街から失業者は消え去り、欧州全体が活気づくことになります。
これはつまり国家が全国民を雇い、国家が全産業に仕事を注文する「超巨大な公共事業」だからです。
「そんなことはありえない」と思われるかもしれませんが、私は十分あり得るシナリオだと考えています。
理由としては、ウクライナ支援やNATOへの協力に消極的な第二次トランプ政権が生まれること。
モンロー(孤立)主義に傾いている米国ゆえに、欧州は自力でウクライナ戦争を解決する必要がでてくる可能性があります。それはつまり、欧州が本気でロシアと向かい合う可能性になります。
まとめ
ここまで「ユーロ」の置かれた欧州(独・仏)のファンダメンタルズを概観してきました。
結論としては、「ユーロは売り」となります。
とはいえ、為替では通貨ペアの問題があり、ユーロを売りとしても、ではどの通貨に対して売るのかですが、ここはやはりドルに対してユーロを売る「ユーロドル」のショートになるかと思います。
ちなみに「ユーロ円」は現状難しい局面にあり、これは日本が抱えている固有のリスクがあるからです。
時機をみて「ドル」や「円」についてのファンダメンタルズ分析の記事も書きたいと思っています。
当記事は以上になります。何かの参考になりましたら、当noteをフォローして頂けると嬉しいです。また、X(旧Twitter)でもファンダメンタルズに関する内容を時折ポストしていますので、チェックして頂けると幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。