70歳以上限定ビール『Beck’s 70+』をデコンする
こんにちは。今月はシニア月間ということでシニア関連のデコンをしています。先日のデコン会ではドイツの大手ビール会社Beck'sの『Beck’s 70+』をやったのでシェアします。
70歳以上しか買えないビール
ひとは歳を重ねると共に体の機能が衰え、味覚が鈍くなるもの。これ自体は自然なことですが苦味を売りにするビール会社としては問題です。そこでBeck’sは、苦味増し増しの70歳以上向けのビール『Beck’s 70+』を開発。これによりシニアも苦味を感じるビールを飲むことができるようになりました。
このプロモーション最大の特徴は「70歳以上(70+)しか買えない」という制限があることです。
最初は、通販お約束の台詞「お高いんでしょ?」よろしく
「そう言っているだけで本当は買えちゃうんでしょ?」
と、思っていたんですが、オンライン販売でも70+を証明するIDをアップロードしないと買えないし、対面ではもちろんIDを見せないと買えないようにしているので、本当に70+のシニアしか買えません。ここらへんはちゃんとやっています。
これもZ世代に火をつけた要因のひとつです。
「おばあちゃん、私にBeck’s 70+買ってくれる?」
「髪白く染めたよ。俺も買える?」
などの投稿がSNSに並ぶことになり、多くのZ世代に認知されます。
シニア専用VIPエリアで販売
Beck'sはブラジル最大規模のエレクトロミュージックフェスティバルでプロモーションを行います。音楽のジャンルからしてもこのフェスにはZ世代が多く来場するはずです。ここであえて"このフェスには来なそうな70+のシニア"をぶつけます。会場内に70+限定のVIPエリアを作ってプロモーションを実行。
めっちゃ気になる!飲みたい!でも買えない!
という状況を作りました。
唯一の買う方法は70+と同伴すること(笑)。
これにより、祖父母と一緒にVIPゾーンに入って買うという体験が生まれます。case study映像でも孫と同伴するおじいちゃんが出てきます。
おじいちゃんはかわいい孫に感謝されて鼻高々だわ、孫はおじいちゃんがもっと好きになるわで最高ですね。今回の文脈では語りませんが、祖父母と孫のコミュニケーションデザインの企画としても素晴らしい。
「衰えた人」から「成熟した存在」への意味変
デコン会を重ねるといろいろな共通パターンが見えてきます。今回のプロモーションの類型は「意味変」型です。過去にも何度もデコン会に登場してきた意味変。
今回はシニアを「機能の衰えた人」から「成熟した特別な存在」に意味変します。ネガティブな意味からポジティブな意味へとネガポジ変換。
Proudly Gray(誇り高き白髪)という言葉にもよく表れています。
高齢になっても人生は刺激的であり続ける
このキャンペーンは、
高齢になっても人生は刺激的であり続ける
Life can remain exciting in old age
というBeck'sの考えに基づいて行われています。
動画に描かれるシニアはとてもオシャレで楽しそう。シニアがカッコいい姿を見せることで若い世代に勇気を与えます。シニアが若々しく人生を楽しむことで、若い世代に
「私、もう若くないしな」
なんて思わせない。
そりゃ生きていりゃあ毎年、毎月、毎秒、歳は取ります。若い世代だって
「高校時代やあの頃に比べたら歳取ったよな」
などと思うのは当たり前。でも自分の祖父母世代が人生楽しんで、カッコよく生きてたら、
「いや、歳食ったとか言ってる場合じゃないわ。私まだ全然若いわ」
って思うでしょう。
実際問題として、
「歳取ったら人生終わり。絶望しかない。歳取るのいやだわあ」
なんて世界中の人が思ったらビールなんか売れませんしね(笑)。街に出て楽しい時間を過ごすお供にしてもらわないとビールなんて売れません。だから、
シニアに若々しく人生を楽しんでもらって、若い世代に希望を与えることは、ビールメーカーの売上にとっても極めて重要なのです。
Z世代へのFOMO訴求
70歳以上(70+)しか買えないとすることで、シニアに特別感を感じさせると同時に、Z世代にFOMO(主にSNSを通して生じる取り残される恐怖)を喚起させているところもポイントです。
え?なんかSNSでめっちゃ見るんだけど!私まだ飲んでないし!やばい!
そう、シニアに訴えながら実は同時にZ世代も取りにきてるのです。
前回扱った『The Night is Young』でもイケイケシニアがクラブで踊りまくる姿を描いていましたが、"本当のターゲット"は若者でした。
カッコいいシニアを描くことでZ世代に訴えるという流れが来ているのかもしれません。
親はウザいけど祖父母は好き
いつの時代もそうですが、若い頃は親はウザいものです。でもおじいちゃんとおばあちゃんは好き。こういう若者は結構います。
親は子供に良い大学に行かせたいと願ったり、勉強させようとしたりして、口うるさくなりがちです。子供の将来を願えばこそなのですが、そんなことは子供にには関係なく、ただただうざい。
一方おじいちゃんとおばあちゃんはたまにしか会わないし、お年玉くれるし、欲しいもの買ってくれるし、甘やかし放題。孫が可愛くて仕方ないから、何やってもそうそう怒りません。そりゃ好きにもなるってもんです。
また、親の世代の価値観はダサいけど、祖父母の時代のセンスは一周回ってかっこいい、かわいいと感じられることもあります。
今回のプロモーションに触れて、
Z世代に訴えるのにシニア世代を使うのはありなんじゃないか?
と感じました。
ショート動画に老人を使うとバズる
デコン会のメンバーひとり、TikTokマスターのGさん曰く、
「なぜかショート動画に老人を使うとバズる」
とのことです。SNSのショート動画と老人の相性が良いと。これはますます「シニア+Z世代」両取り企画はアリかもしれないですね。
言うまでもなく、シニア世代はベビーブーマー世代で最大のボリュームゾーンですし、購買力もあります。そしてZ世代は、今後何十年にも渡り商品を買い続けてくれる可能性のある世代です。ここを両方取れたらそれはそれは素晴らしいですよね。
まとめ
今回はまさにこの両極を狙った素晴らしいキャンペーンでした。また、苦味の強いビールを開発することによって、若者でもシニアでも、
"年齢に関わらず同じ味のビールを楽しむことができるようにした”
というのもビールメーカーとしては大切で、見逃せないポイントです。
シニアを狙ったふりして実はZ世代を狙った企画、もしくは両取りを狙った企画。世の中を見渡せばまだまだあるかもしれませんね。今後もこの流れに要注目です。
P.S. Case studyの動画は以下のページから見られます。
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