「ジャスミンの香る部屋づくり」第8話(全9回)
第8話
ショールーム巡りの日は、朝9時に車でお迎えに伺いました。通常は電車を使って1日で巡れる行程を組むのですが、訪れたいショールームは場所が離れていて、膝を痛めている先生を連れ回すのはできるだけ避けたい。訪れるショールームも数を抑えて、ゆっくりと焦らず回れるようにしました。
最初に行ったのは天童木工さんのショールーム。天童木工といえば、成形合板の技術を活かしながら優れたデザインの名作を数々生み出してきた日本を代表するメーカーです。こちらにはブルーノ・マットソンのハイバックチェアをはじめ、軽くて座り心地のいい安楽椅子をたくさん見ることができます。
ここでは安楽椅子の代名詞とも呼べるマットソンシリーズをご案内したくて訪れたのですが、意外にも先生が気に入られたのはロッキングチェアでした。確かに座りながら動けるというのは快適で、前後に揺れるロッキングチェアの他に、左右に回転できる椅子も気持ちのいいものです。
一軒目をみた後はお昼休憩。私はいつもこのお昼休憩が楽しみで、打ち合わせだけではわからなかったお客様の一面を発見することもしばしば。ましてや今日は10年ぶりに実現する先生とのお食事。車は家具屋さんのそばに停めたままで、近くのイタリアンに行きました。先生のイギリス旅行やあの家で暮らしてきた子供時代、女学校時代の話など、このまま2軒目でケーキを食べながらお話の続きを聞きたくなるほど楽しい時間を過ごしました。先生に英語を習っていたときには「ちょっとこわくて、厳しい先生」でしかなかった方が、当たり前ですが私と同じように学生時代を過ごし、海外旅行に胸をときめかせていたことがありありと思い描け、大人になって先生とお話しできたことに改めて感動します。名残惜しくもありましたが、ショールーム巡りは始まったばかり。気持ちを切り替えて午後の行程がスタートです。
2軒目は1959年にオーレ・ヴァンシャーがデザインしたコロニアル・チェアをお見せしたくて北欧家具のお店に足を運びました。フレームが木製でできているため、先生でも移動が容易な軽さが魅力です。一つ一つのパーツが細く、アームや後ろ足に曲線が取り入れられているので、繊細で女性的な印象を持つ椅子です。後ろ姿もとても美しく、今回のようにお部屋の中央に置くのにもぴったりの椅子でした。こちらも、特に座り心地がいいと喜んでくださって、ここまで順調に運んでいることに心底ホッとする私。私の中で寝室の主役は家具を引き立てる壁の色、ダイニングの主役はシャンデリア、リビングの主役がこの安楽椅子なので、これさえ決まれば完成にググッと近づけると、セレクトにも力を入れました。
最後に行ったのはヴィンテージ家具を扱うお店。ちょうどおすすめしたかったウィングバックチェアと、それほど古くないラルフローレン社の一人がけソファがあり、体験していただくことにしました。どちらも生地を新しく張り替え、しっかりとメンテナンスされていました。
ウイングバックチェアは、背もたれが高く、頭までしっかりと支えてくれる大きめのソファです。背もたれのちょうど耳のあたりが羽のように左右に伸びていて、包み込まれているような感覚を覚える、居心地のいいパーソナルソファ。張り地は偶然にもモリスのmontreal(モントリール)というダマスク柄の生地で、大変美しく、壁紙にもぴったりの椅子でした。色はチャコールグレーの地に、マスタードイエローのお花がアクセントになっていて、落ち着いた色調ながらお部屋にアクセントを加えてくれます。先生もとても気に入ってくださって、まずは一安心。
もう一脚もボタン留めの背もたれが洒落ていてとてもよかったのですが、「モリスつながり」に喜ばれていた先生はウィングバックチェアに夢中のようです。家具を選ぶときは何脚もの椅子に座ったり、触れたりして、自分が何に心惹かれるのかが比べられるショールーム巡りがとても重要です。写真を見るだけではわからなかったサイズ感や硬さ、柔らかさも実感でき、選択がグッとしやすくなります。
あえて値段はバラバラにすることで、それぞれの椅子の個性も感じていただけるんじゃないかな、と考えてご案内しました。座り心地を身体が覚えているうちに、自分にとって何が心地よかったのかを感じていただきます。プラス面とマイナス面のバランスをとるのか、あるいは一目惚れで決断するのか、選び方は人によって様々ですが、それを決断するための準備をするのが私の仕事です。
その後インテリアショップでダイニングチェアにも数脚座っていただき、全て見終わったのは4時、本当はたくさん種類のあるモリスの壁紙や生地など他にもご紹介したいものはあったのですが、ここはググッとこらえて帰途につくことにしました。ヴィンテージチェアだけはキープしてもらえる期間が限られているので早めに決断しなくてはいけませんが、ひとまず全体の予算ともう一度照らし合わせて決めていただくことに。
家具のイメージができてくることで、お部屋がようやく姿を見せはじめてきました。先生にも「楽しみが一つずつ増えてきました」と言っていただき、後は実現に向けて進んでいくのみ!来週から工事も着工となり、お家の完成が私も楽しみです。
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