ある日突然もう一人の妻が現れたら・・・(4)
2030年…
日本は異次元の少子化対策として、さまざまな子育て支援政策を行った。
しかし、子育て世帯は期待するほど増えず、少子高齢化時代に突入した。
異次元の政策の最後の砦として、一夫多妻制の導入が検討された。
子孫を残したい男性と、子どもだけがほしいという女性が興味をしめすこともあったが、既婚者からしてみればとても現実的ではない政策だった。
反対の声がほとんどだった。
一度ニュースになった際に、「こんなの想像できないよね。」と話すと、
「うん、考えられないな。」と夫は言っていた。
お金を持っている人たちが、密かにやっているという噂もあった。
でも結局のところ女性が一人で育てることになり、常に夫の取り合いになるという話も聞いた。
娘はあっという間に大きくなっていった。
つい最近まで赤ちゃんだと思っていたのに、もう3歳になってしまった。
そろそろもう一人ほしいとは思っているものの、金銭的に厳しいのが現実だ。
社員として共働きすれば生活に余裕が出るのかもしれないが、私は娘という宝物との時間をどうしても削りたくなかった。
つわりがひどく、海外出張の多い貿易会社は退職せざる終えなかった。
仕事は好きだったが、母に代わりはいないという夫の言葉に後押しされた。
出産後もこの時間はお金では買えないと思い、後悔したことはない。
子どもの数が少ないせいか、保育園の入園もすぐに決まった。
入園して3ヶ月経つが、お迎えの時間に他の保護者に会うことはなかった。
パート先でも働いている人のほとんどは、定年退職後の人だった。
居心地が悪いわけではないが、同年代の人と関わる機会が少ないのは事実だ。
友人たちとはSNSで近況を知ったり、そこで交流するのがほとんどだ。
高校時代の友人サクラとは、疎遠になっていた。
SNSでなんとなく繋がっていたが、大学時代にテニスサークルで大人数で楽しんでいる写真を見て、私とは違うタイプの人間だなと改めて思った。
そんな彼女も今では一児の母だ。マッチングアプリで知り合った男性と結婚したそうだ。
彼女と高校時代に付き合っていたゲンちゃんは元気にしているのだろうか。
夫によると、大学を卒業してからは仕事で地方を転々としているから会えていないそうだ。
夫は高校を卒業してから、すぐに仕事を継いだ。
夫は周りがみんな大学に進学し、自由に遊んでいることを羨んではいた。
「仕事を継ぐことは、前から決まっていたから。」とは言うものの、もし
大学に進学していたら、違う人生を歩んでいたかもしれない。
口にはしないが、夫にも夢があったと思う。
仕事以外にも、夫は昔お世話になった空手道場に週2回ほどボランティアで
子どもたちに空手を教えている。
なぜなら、師匠が高齢で子どもに教えるのがしんどくなってきたからだ。
夫以外にもボランティアで教えている先生は何人かいるが、夫は師匠にとても信頼されている。
いつか道場も継ぐことになるのだろうか。
娘もパパと空手をやりたいと言っている。
親子で型の練習をしている姿を想像したら、とても愛おしく感じた。