ある日突然もう一人の妻が現れたら・・・(6)
「ひつじが86ぴき…」
娘は羊を数えながら、夢の中へ落ちていった。
娘の寝顔はまるで天使のようだ。
この寝顔を見ると、今日も一日頑張ってよかったなと思う。
私たちは家族3人、同じ部屋で寝ている。
和室に布団を川の字に敷いて。
娘は川の字の真ん中で寝ている。
娘の「スー、スー…」という寝息を確認し、夫も娘の寝顔を覗く。
「サンタさんのプレゼント、何がいいって?」
私は戸惑いつつも、夫に正直に話すことにした。
「あかちゃんだって。妹でも弟でもいいですって言ってたよ。」
夫が何て返してくるのか、正直不安だった。
夫は黙って、布団の中に入ってきた。
「じゃあ、頑張らないとな。」と言って、私を抱きしめた。
夫の腕の中で、自分の気持ちに向き合った。
「年齢のことを考えると、作るならそろそろ作らないとなとは思う。
でも、妊娠するのも出産してからのことも考えると正直怖い。
仕事も変えないといけないのかなって。」
夫はしばらく黙っていた。
「代われるなら代わってあげたいけど、自分は妊娠できないからなあ。」
よくわかっている。自分が覚悟を決めないといけないということは。
パートの仕事は人間関係のトラブルもなく、子育てと両立するには最適だと思っている。
しかし、独身時代にバリバリ働いていたときと比べるとやりがいは欠ける。
子どもが熱を出したときに休むことも多く、周りは理解は示してくれるものの人員削減の際に自分が残れる自信はない。
子どものために自分を犠牲にしているとは思っていないが、体力や心の余裕を考えると犠牲にせざるを得ない。
だから子どもが増えないんだろうな…と、この国が抱える問題に気づいた。
「はぁ。」と思わず、ため息が出た。
夫はずっと黙って、私を抱きしめていた。
夫の背中に手を回した。
「2人目のときは、実家に帰れないから…エミの面倒と家事も頼むよ?」
「…うん、わかった。」と言って、夫は私を強く抱きしめた。
夫は多くを語るタイプではない。
だから、夫の話し方と態度で夫も覚悟を決めたと感じた。
私も覚悟を決めて、応じることにした。
夫との行為は、それなりにあったほうだと思う。
出産後は、娘が夜中に起きることを懸念してできなかった時期もあった。
娘が卒乳してからは夜中に起きることもなくなり、頻度は結婚当初に戻った。
もちろん、夫の浮気や不倫を疑ったことなどはない。
遠距離恋愛の時期もあったが、夫は当時仕事が忙しく浮気をする時間などなかった。
それに、実直な人間だから浮気などする度胸もないと思っていた。
それも今思うと、私の思い違いだったのかもしれない。