ある日突然もう一人の妻が現れたら・・・(5)
「12月…もう今年も終わりか〜。」
カレンダーを見て、私はそう呟いた。
「ママ〜。12がつって、サンタさんがくるひ?」
娘は前まで私のことを『お母さん』と呼んでいた。
保育園では周りはみんな『パパ、ママ』と呼ぶらしい。
娘も子どもなりに、保育園に馴染もうと頑張っているようだ。
「そうだね、サンタさんにお手紙書かなくちゃね!」
「なに、おねがいしようかな〜?」
「お母さん、お手紙用意してくるね!」
そう言って、便箋を取ってきた。
シンプルな白い紙に、花びらが舞っている。
鉛筆も用意した。
「何をお願いするか決めた?」
「うん!ママ、かわりにかいてね。」
「はーい。」
『サンタさんへ
わたしは、かわいいあかちゃんがほしいです。
おとこのこでも、おんなのこでもいいです。
おねがいします。 エミ』
書いていて、娘も妹か弟がほしいということを知った。
娘は前から、ぬいぐるみのお世話などをするのが好きだった。
保育園でも赤ちゃんクラスの子と遊ぶのが好きだと先生が言っていた。
「サンタさん、あかちゃんつれてきてくれるかな〜。」
「今年は難しいと思うけど、きっといつかは叶えてくれると思うよ。」
「なんで、ことしはむずかしいの!?」
娘が目を丸くして、不思議そうに尋ねる。
黒目がキラキラと輝いている。
娘のキラキラした目を見ると、嘘をつくのは無理だといつも思う。
「あのね、赤ちゃんはそんな簡単にできるものじゃないんだ。
エミもお母さんのお腹の中に10ヶ月くらいいたんだよ〜。」
「え、そうなの!?」
「最初は種くらいの大きさなんだけど、お腹の中でゆっくり大きく
なっていくんだよ〜。」
私は、娘に妊娠中のエコー写真を見せた。
妊娠初期から臨月まで、毎回定期検診で撮ってくれたものをアルバムに
保存していた。
「ほら、ちょっとずつ大きくなってきているでしょう。」
「ほんとだー!」
「お腹の中にいたときのことって、覚えてたりする?」
「あんまりおぼえてないけど、まっくらだったよ!」
「そーなんだ!真っ暗で怖かった?」
「ねてるときとおんなじだよ!」
「楽しいときもあるんだね。」
「うん!おとがきこえるときはたのしいよ。」
娘がお腹の中にいるときのことを覚えていることに少し感動した。
娘はエコー写真を撮るときは、まるまって背中を向けていることが
多かった。
どんな顔をしているか生まれてくるまで想像もつかなかった。
エミという名は、夫が考えた。
私がメグミという名前だから、ミで終わる名前にしたいとは思っていたが、
生まれて顔を見てから決めることにした。
娘が同室になったとき「おはよう。」と声を掛けると、目を開けてうっすら微笑んだ気がした。
「エミという名前にしよう。」と夫が言った。
私はこの名前をとても気に入った。
娘を笑みの溢れる家庭で育てたいと思った。
夫となら、それを叶えられる気がした。